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【2】
年越し勤務を終えて、昼前に自宅マンションに帰って来た俺を迎えてくれた恋人。
合鍵は渡してるけど、沙耶香は勝手に使うことはしない。「自由に出入りしていい」って覚悟で渡してるのに、絶対「明日はいい?」とか確認してくるんだよな。
当然今日もそうだった。
メッセージで《元日にそっちの部屋行っててもいい? 別に構ってくれなくてもいいから。》って送って来てたんだ。
正直、正月早々仕事明けにぐだぐだ言われんのは勘弁して欲しかった。
でもそれさえ我慢してもいいと思うくらい、俺は沙耶香が好きで大事なんだよな。「ああ、怒ってないんだ。まだ大丈夫」ってだけで嬉しかった。
《いいよ。》ってメッセージ入力しながらやっと気づいたんだよ。他の娘ならきっと断ってたはずだから。
「……沙耶香」
俺の部屋は、広いとは到底言えない1DK。
ダイニングキッチンの二人用のテーブルの上にあるのは、所謂「おせち料理」でも重箱でもない。
「明日からスーパー開くし、保存食の必要ないでしょ。というかあたし『おせち』なんて作れないわ。これ我が家の正月の定番なの。変かもしれないけど、うちはこうだから!」
多分彼女が持って来た、ラップの掛かった大きな深皿に盛られてるのは豚の角煮?
「角煮、だよな?」
「そうよ。うちはね、大根とゆで卵も入れるの。美味しいよ。あ、お母さんに教えてもらったんだけど、これはちゃんとあたしが作ったから!」
腰に手を当てた彼女は、顰め面作りたいんだろうけど失敗してる。口元笑ってるよ、沙耶香。
「美味そうだよ」
「違う。マジ美味しいの! あ、今食べる? これから寝るなら起きてからにする? 寝たいんならあたしのことは気にしなくていいよ。ノートパソコン持ってきたし、ダイニングで映画観てるからさ」
そこも気遣ってくれるんだな。
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