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「腹減ったから今がいい。お前は? もう食った?」
「こんなもん一人で先食べてどうすんの? 慎吾が今食べないなら、あたしもあとにするつもりだったよ。ご飯はわかんなかったから炊いてないの。冷凍あるからそれでいいよね?」
OK、と返しながら勝手に口元が緩む。
俺と「一緒に」食べることに意味がある、って考えてくれてるのが嬉しいんだ。
なのに今こんなこと口にしていいのか? いやでも……。
「沙耶香。ちょっと言いにくいんだけどさ……。食べる前に少しだけ取り分けていいかな? その、えっと。──母さんにも食わせたいんだ。俺の彼女はすごいんだって自慢したい。あ、料理がどうとかじゃなくて、心の問題っていうか」
ああ、こんなこと言ったら「マザコン野郎」の烙印押されんのかな。
他人にどう思われようと平気だけど沙耶香に引かれんのはちょっと辛いな、と恐る恐る切り出した俺はまだこいつを舐めてたらしい。
「もう分けてあるよ! お母さん、一人暮らしでまだお仕事してて忙しいんでしょ? でも自慢はしなくていいから」
ベッタリとは程遠いけど、俺がたまに母さんに顔見せに行ってるのも彼女は知ってる。そのとき俺が作ったものを持ってくことがあるのも。
「……大袈裟にはしねえけど、絶対する、と思う。自慢」
軽く肩をすくめただけの彼女に、お許しが出たと思っておく。
「ねえ慎吾。あたしの職場は年度末が超忙しいから、そんときはあんたが労ってよね。時間なかったら手料理じゃなくてもいいし、デパ地下で豪華なもの買って来てよ!」
本当に美味い角煮を食べながら、狭いテーブルを挟んで向かいに座る彼女が俺の目を見て言い放った。
「おう! できるだけシフト空けるようにする。もし無理でも、夜勤明けでも絶対やる!」
「別に『やってやったんだから返せ!』ってわけじゃなくてさ、……そういう関係がいいのよ、あたし」
支え合う、想い合う、──恋人が一転して静かな声で紡ぐのはおそらくそんなこと。
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