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「よくやった。と、言いたいところだが、これでどれだけ絞り込める?」
管理官の質問に、鑑識の園枝は言葉が返せなかった。分析の結果から容疑者を絞り込むのは鑑識の仕事ではない。
管理官を含め、ここにいる全員がそれを承知してはいるが、「これで何が分かるというのか」という気持ちも、同じく全員が感じていた。
現場に残されていた油分の正体は、油圧システムの作動油だった。
比嘉は、纏められている捜査資料をひと通り眺めると、手を挙げて発言の許可を待った。
「なんだね、比嘉君」
署長の声に、比嘉は立ち上がって口を開いた。
「捜査一課の比嘉です。見たところ、現場となったオフィスに油圧システムを使うような機械はありません。とすれば、皆さんも想像している通り、死体を切断した器具に使われたものであると考えるのが自然でしょう。資料に『切断に使用されたのは油圧カッターのようなものと考えられる』とありますから。油圧カッターのものだと考えれば、それほど多くの種類はないと思われます。これは、大きな手掛かりであると捉えて良いのではないかと」
比嘉の発言に、園枝は感謝の目配せをした。それに比嘉も頷いて応えた。
「なるほど。では、その線の捜査は比嘉班に任せよう」
管理官の指示に、比嘉は「了解しました」と応じて着席した。
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