第六話

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「熊本県警に手柄を全部渡すこともなかったんじゃないですか?」  熊本を発って博多駅でのぞみに乗り換え、走り出した車内で川島が開口一番溢した言葉に、戸塚は車窓へ視線を移しただけだった。返事が返ってくる気配のない戸塚に川島は頭を掻いて、足元に置いてあったビニール袋に手を伸ばした。 「それ、夕食に買ったんじゃないの?」  博多駅の売店で買った弁当を開け始めた川島を見て、戸塚は呆れて言った。熊本駅に向かう途中でラーメンを食べてきたばかりだ。 「まさか。まだ三時ですよ? そんなに早く買わないでしょう、普通」 「『まさか』って言われても……。川島君の普通なんて知らないし」  普段と変わらない川島に嘆息しつつ、戸塚は捜査の行方を憂慮していた。 「丹田慈巳(たんだしげみ)か……」  リンドウを採取した牧場のオーナーは、厚生労働大臣政務官の丹田だった。その丹田が事件とどうつながっているのか、比嘉が東京で調べているはずだ。 「大丈夫かな……」  悩む戸塚に、半分にカットされた明太子をひと口で頬張った川島が、口の中ではじける明太子の香りを楽しんだ後に「それは」と口にしたかと思えば、続きを話す前にもうひと切れを頬張った。
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