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第6話_それぞれがいるべき場所
そして、月が変わってから最初の日曜日。
雲ひとつない冬晴れの良日となった今日、夕方から楠瀬邸にて、葉月・苡月兄弟の誕生パーティーが開かれる予定だ。
宮司のかたわら副業で武道教室を営んでいたり、料理好きが高じてご近所の主婦らを相手におすそ分けやレシピ配布をしていることもあって葉月の交際範囲は広く、お祝いしようと声をかけてくる知人は多い。
とりあえず各方面から広く要望を聞き入れつつ、カテゴリごとに何度かに分けて祝いの場を設けるよう断りを入れ、日程を調整している。
そして今日は、知人の中でもより近しい関係と言える、現役『セイバーズ』が集まる会となっている。
男ばかりかつ一番こぢんまりとした規模にはなるが、葉月にとっては最も大切で、かけがえのない時間になるだろう。
もちろん神事は予定に入れず終日オフにしていて、集まるメンバーへふるまう料理の仕込みに、午前中から勤しんでいる。
オードブルやデリバリーを頼もうという参加者からの提案は、出来合いやレトルトを嫌う葉月みずからかたく固辞している。
料理人としての顔も持つ彼の、譲れないこだわりが感じられる。
そして、兄が台所でせわしなく動く後ろでは弟の苡月が居間のテーブルに座り、前日に買い揃えた飾りつけを黙々と準備していた。
今日のもうひとりの主役である彼は、まさにこの当日、15歳の誕生日を迎える。
揃いも揃って主賓がもてなしに精を出す形になっているが、飾りつけの方に関しては、まもなく助っ人が到着する手筈になっている。
「――おじゃっしぁーっす!」
兄弟がおのおの作業で手が離せなくなっているなか、玄関から聞きなれた大声が届き、反応を返す間もなく、近付く足音と共に居間のふすまが開かれた。
「待たせたな!」
開け放った仁王立ちの姿勢のまま、飾りつけの手伝いにかけつけた陽は、ふり向くふたりへ胸を張り、にかっと笑った。
「あぁ、陽。手伝いに来てくれてありがとう、助かるよ」
「いやいや、ほんとなら俺らがもてなす側だし!」
台所から声を投げてくる葉月へそう返すと、陽はボディバッグと上着を隣の部屋へ投げ、苡月の対面に座りこむ。
正座する苡月の周りに出来上がった飾りの山を見、陽は視線を巡らせつつ驚嘆する。
「すげー。だいぶ進んでんな!」
「うん、昨日からやり始めてたから。もう少し作って、あとは飾るだけ」
「高いとこの飾りつけは任せとけ!」
「あ、あと陽君には、これ膨らませて欲しくて…エアーポンプ買い忘れちゃったんだ」
「おー、俺の肺活量が試される時だな! 腕が鳴るぜっ」
「使うのは口だけどね」
助っ人の陽が合流し、苡月は飾り作りのラストスパート、陽は風船式のデコレーションへマンパワーで空気を入れる作業を進める。
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