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[異界]に"昼夜"という概念はなく、常に薄闇に包まれている。
基本的に光を好まない者が生息しているため、世界が明るい必要はないためである。
この、方角や天地の標もなにもない空間に、さきが見えぬほど巨大で無機質な直方体が浮かんでいる。
[異界]に棲む[侵略者]たちは、この内部にそれぞれがテリトリーを持ち、各々好きなように造り変えて居を構えている。
おのれ以外に興味が無い[彼ら]は、同胞同士も不干渉・不接触を暗黙の了解としている。
不用意に接触することで心の平穏を乱されないように、という意味合いが強いが、獲物である『人間』の奪い合いになるような、些末な諍いを未然に防ぐためでもあった。
しかしごく稀に、テリトリーの近い者同士が"利得"を目的として接触することもあった。
本質的に、他者が絡むことによるメリットは皆無と考えている彼らにとって、非常に珍しいケースである。
それでも数年に一度の頻度で、この果てなく巨大な住処のどこかで確かに見られる光景だった。
一定の気配で満たされているとある領域内に、全く別の臭いを放つ気配がふと混ざり、空気の流れを乱していく。
侵入した異質なる気配は、その領域内を満たす気配と同等の強さを放ちながら、中心部へとまっすぐ割り入っていく。
領域の最奥には、そこを支配する[侵略者]の寝所が据えられていて、おのれのテリトリーを汚された主が近付くその気配へ向け、憮然とした顔貌で相対した。
「――やぁ同胞よ、"門"を開いておいてくれてありがとう。きみの寛大な配慮に感謝する」
両腕を広げ、鷹揚な口調からどこか芝居じみた台詞を吐く部外者を、領域の主[浬]は、苛立ちを隠すことなく睨み据えた。
「必要外のいとまを汝に与えた覚えはない。要件だけを吐け、臭くてかなわん」
そうあからさまな敵意を向けられ、領域へ侵入してきた侵略者[犲牙]は両手を挙げて敵対する意思がないことを伝えると、空間に着座できる物体を呼び出し、[浬]へ対面して腰かけた。
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