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真にすべての要件を終え、蒼矢は再び腰を浮かせた。
「じゃあ、明後日宜しくお願いします」
「おー。お前らも当日はあんま長居すんなよ」
「了解です」
楠瀬家で行われる予定の誕生パーティーを示し合せつつ、蒼矢は立ちあがって部屋をあとにしかけるが、はたと気づいて、見送る影斗へとふり返った。
「今度、ちゃんと祝わせて下さいね」
「? なにを?」
「決まってるでしょう、起業のことですよ。改めて場を設けるようにしますから」
「あぁ…!? いいって別に。今更過ぎるだろ」
「今更なのは先輩の自己責任です」
去り際のふいな提案に影斗はややうろたえるが、蒼矢はちろりと彼をにらみ、釘を刺す。
「なにも言われないからって全部スルーじゃ、あとあとこっちが消化不良になるんですからね。みんなにも報告しておきますから。きっと心配してますよ、先輩のこと」
「えー、もう…勘弁してくれよ…」
「――嬉しいなぁ、祝ってくれるんだ。"いずれ"って結構期待半分だったんだけど、またすぐに会えそうだね」
そう話す蒼矢の背後から声がし、ふり返るとドアがわずかに開いていて、先ほど影斗に追い返された塩顔が隙間から入り込み、つり目を細めて笑んでいた。
「廿日市さん…!」
驚く蒼矢と苦い顔の影斗から視線を浴びながら、廿日市は首から下もするりと部屋の中へ入れ、片手に載せた木製トレーを少し上にあげてみせた。
「コーヒー淹れてきたんだけど、帰る前に一口だけ飲んでいかない?」
ドアが開けられた時に流れてきた外気に少し肌寒さを感じた蒼矢は、廿日市の言葉に甘えて座り直し、紙コップに入れられたコーヒーを頂く。
「…! 美味しいです」
普段は水かお茶をよく飲んでいるため通ではないものの、飲み慣れていないからこそわかりやすく伝わる風味の良さに、蒼矢は思わず驚きの声をあげ、率直な感想を口にした。
「すごく飲みやすいです」
「でしょー? コーヒー初心者でもおおむね美味しく飲めるように、ブレンドしてるんだよ」
「…俺はいつもの方が好きだな」
「いつものは、宮島用に調整してるからだよ。お前の好みは尖り過ぎ。俺が言うのもなんだけど、もう少し飲む頻度抑えた方がいいよ」
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