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蒼矢の感想に満足してから、廿日市はちゃっかり彼の隣に座りこむ。
「で、さっきの起業祝いの話だけど。もちろん俺も混ざっていいよね?」
「? は…」
「うぜー。聞き耳たてやがって」
廿日市の口ぶりに意味が飲み込めない蒼矢は、対する影斗の反応を見て、ますます面食らう。
話の流れについていけていない蒼矢へ、廿日市は笑顔でつけ加えた。
「会社は俺と宮島の共同設立だから。もちろん他にも何人かに手伝ってもらってるけど、主導は俺たちふたり」
「…! そうだったんですか」
さきほど影斗が言っていた"起業の発起人"が廿日市だと思い当たった蒼矢は目を見張るが、影斗は聞き捨てならなそうに眉を寄せる。
「おい、勝手に中心人物にすんな」
「いやいや、宮島が中心でないと困るんだよ。俺の立ててる事業計画は、もうお前が"CEO"で走り出してるんだから」
つっこむ影斗へ構わずそう断ると、廿日市は蒼矢へふり向く。
「俺の方から、一緒に起業しようって誘ったんだよ。宮島の顔の広さと鋼メンタルは、他ではなかなか得られないからね。こいつが就職するかどうするか迷ってた時期に、すかさず声かけたんだ。"お前は絶対一般企業では続かないから、協力して"って」
「…確かに、先輩の気質はいち社員向きじゃないとは以前から思ってました」
「あとはなにしろ、この顔面の強さとシルエットの良さだよ! 会社の顔として担ぎあげるには、最適な逸材だと思わない? 俺みたいにもやしで顔面弱々だと、学生だとどうしても舐められちゃうからさー」
「なるほど、いろんな面で先輩は適任ということですね。同意できる部分が多いです」
「…当事者そっちのけで意気投合すんな」
廿日市はひとしきり蒼矢へそう語ると、不機嫌そうな影斗へ目を細めてみせた。
「…まぁ宮島はなにしろ、どっしり構えててくれればいいから。その裏で俺は、資金調達したり情報回したり、調整役に収まらせてもらうからさ。矢面に立たせる分、悪いようにはしないつもりだよ」
「宅建だの会計士だの色々資格勉強させといて、よく言うぜ…」
「年内には合格してね」
「…受かったら、その減らず口を9割黙らせるから覚悟しとけ」
不敵な笑みを浮かべつつ、心底楽しそうに言ってのけてくる廿日市へ、影斗は呆れたような、諦めたようなため息をついた。
「で、軌道に乗ってきたらカフェもやりたいんだよねー。俺、飲むこと以上に提供することの方に興味あるからさ。今はJBAのライセンス取得目指して猛勉強中!」
「…それはほんとに、お前の資金範囲でやってくれ」
「店が出来たら髙城君にも知らせるから、是非来てね」
「わかりました」
「というわけで、連絡先交換させてくれる?」
「! は、はい」
「…お前、まじうぜぇ」
影斗から厳しい視線を浴びつつも廿日市と連絡先を交換した蒼矢は、身近な起業家の話に少し心を刺激されつつ帰路に着いていった。
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