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[犲牙]は、光沢ある生地に包まれた長い脚をゆるく組み、明快なトーンで語りかけ始める。
「――『奴ら』に欠けができたよ」
「そんな情報を流すために我の労力を割き、今こうして我の時間を奪う真似を?」
「あら…もしかして、きみももう知ってた?」
「…我に犯した汝の罪は深い。五体満足で陣地へ還れると思うな」
そう静かに返すと、[浬]は一瞬にして領域内の気配を増大させる。
「…まぁまぁ、もう少しだけ話をさせてよ」
対面から注がれる殺意と膨れあがる気配にやや焦った風な反応を見せるも、[犲牙]は軽く息をついてから切り口を変えていく。
「じゃあ、『次の候補』に目星が立ったことは知ってる?」
「…?」
礼儀のない部外者を飲み込む寸前までいきかけていた[浬]は、震えあがるような怒火を固まらせ、眉だけをわずかに顰めた。
「…思考機能を損傷でもしたか? そんなものは今時点で判りようもない」
「それが判ったんだよ。俺の優秀な[異形]たちの働きによってね」
周囲を満たす気配が元に収縮していく様子を感じとった[犲牙]は、少しだけ胸をなでおろしてから座り直し、にやりと口角を上げた。
「『候補』はあくまで候補で、実際に成るまで[異界のもの]に知る術はない。よって、欠けができて弱体化した『奴ら』の隙を突くにしても、次が揃うまで待つ、雛のうちに潰す。それが定石だ」
「そう。たとえ成る予定がたったとしても、ただの人間である内は"石"がなければこちらも察知しようがないからね」
「…確かな情報なんだろうな?」
「間違いないよ。それこそ、俺の体躯を賭けてもいい。…万が一間違っていたら、きみに全てくれてやろう」
先ほどまで一貫してどこかおどけた風な佇まいだった[犲牙]は、青みがかった薄闇の中、薄く笑いながら挑発じみた物言いを同胞へ放つ。
余裕の表情でこちらの反応を見る彼へ、全く興味がないわけでもないのか、[浬]は探るような視線を注ぎ返す。
「"判った"ところで、汝はどうする」
「当然、潰すさ。成る前であればなんの障害もない。『奴ら』もまさか、事前に[異界]が把握してるとは思わないだろ?」
「…」
「他の餌と同様に頂いてから、息の根を止める。あぁいや…壊して支配して、持ち帰って玩具にでもしようかな。『次の候補』には、個人的に興味もあるんだよね」
ひとり想像を膨らませたか、[犲牙]は虚空へ視線をやりながら、にたりと妖しい笑みを浮かべた。
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