第5話_買い物帰り

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苡月が黒い子犬と少したわむれ、別れを惜しみながらもやがて子犬が足元に戻ると、男は苡月の荷物を差し出す。 荷物のことを忘れてしまっていた苡月は、はたと気付いて慌てて頭を下げる。 「あ…! っ持たせてしまったままで、すみませんでした…」 「ううん。階段登っていける?」 「はい、…これ以上ご迷惑はかけられません」 「そっか。うん、君の言うとおり…ここまでにしておこうかな。この先は毒が強い(・・・・)からね」 「?」 男の言葉に苡月は小首を傾げかけるが、ゆっくりと荷物を戻され、たちまち頭の中が両腕の重みに支配される。 「じゃ、気をつけてね」 「はい、ありがとうございました。今度会えたら、一緒に散歩コース回らせて下さい」 「うん、構わないよ」 苡月が頭を下げるなか、男は子犬を連れ、元来た道を戻っていく。 「…ふあぁ、登れるかなぁ…」 げんなりした面持ちで手元の荷物へ視線を落としつつ、姿勢を戻した苡月ははたと気づき、男が歩いていった方を見返す。 しかしその時にはすでに、男と子犬の姿は消えていた。 「名前聞き忘れちゃった。…せっかく友達になったのに」 呆然と誰もいない景色を眺め、苡月は自分の手落ちに嘆息しながら呟く。 すると、下げた目線が地面の違和感をとらえ、吸い込まれるように視線を持っていかれる。 「…!」 荷物を石段に置き、苡月は光る小さなチャームを拾った。 おそらくドッグタグと思われるそのチャームは、ガラスか水晶で出来たように透き通っていて、小さな楕円の中に彫られた幾何学模様が、光を反射してきらきらと輝いていた。 苡月は、その繊細で緻密な美しさに一時見とれてからはっと我に返り、再び道の先へ視線をやった。 「…きっと落としていったんだ。また会えるかな…」
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