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妄想にふける[犲牙]を、[浬]は変わらず感情を消した双眸だけで眺める。
「…そうしかけて、失策した奴がいたな」
「ああ、[あれ]は残念だったね…タイミングが悪かった。いや、"覚醒"を促してしまったとも言えるかな。…完全に自滅だ。[侵略者]のなかでも実力ある方だったのに…終わりは無様だったね」
[犲牙]は、かつて『守護者』たちと交戦し塵になっていった[同胞]を指して鼻で嗤ったが、そんな彼を見、[浬]はただ苛立ちを募らせる。
「汝も把握しているはずだろう。その『水使い』が、更に厄介な力を備えたことを」
「ああ、知ってるよ。身ひとつで弱点を暴いてきたんだったっけ?」
「そうだ。…さきの見聞から察するに、我にとっては今はまだ危惧するほどではない。が、"変容"があったことは確実…このまま放っておけば、そのうえいかなる力に目覚めるかわかったものではない」
「確かに、それは困るな」
「一刻も早く『水使い』を『守護者』から引きずり下ろさねば、今後しばらく[狩場]を満足に確保できぬようになるやもしれん。…今、なによりもまず潰すべきは『水使い』だ」
「その通り」
「ならばさっさと失せろ。目的の違う汝と交わすものはなにも無い」
「だから交渉しに来てるのさ。目的の違う者同士、手を組もうじゃないかって」
おそらく[異界のもの]大半の共通認識だろう[浬]の口上を聞き、頷きながらも、[犲牙]は余裕の面を返しつつそう言ってのけた。
にわかな提案に、あからさまな怒気を浴びせかけていた[浬]は再び表情を止め、口を半開いた。
「目的が同じなら、わざわざこうして見たくもない面突き合わせに来ないでしょ。潰したい奴が勝手にやってくれればいいんだし」
「…汝はなにを言っている?」
「だから、それぞれ狙えばいいんじゃない? って話。俺が『候補』を頂いてるその裏で、きみは『水使い』を消せばいい。俺は自分の用事中に『水使い』に干渉されたくないし、きみだって目的を達成するのに、相手する数は少ない方がいいはずだ」
「……」
「もちろん大前提、きみの実力・実績を買っての提案だよ。誰でもいいわけじゃない。俺だって失敗したくはないからね」
一時的に思考を失ったか能面のような顔貌を晒す[浬]へ、[犲牙]はささやかに彼を持ち上げつつ、したり顔でそう持論を浴びせ続けた。
そして、激昂から次第に思案するような面持ちになり、沈黙を続ける対面の同胞の内情を見透かすように、静かに畳みかけた。
「…[我々]は基本孤高で[周り]は見えてないけど、利得が絡むなら協力する機会があっても悪くない。…厄介なことは上手く分散させて、合理的に片付けないか?」
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