白い世界

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「――なんのこと」 「しらばっくれんなよ。自分の残り時間ぐらい、自分で解る」  そう言い終わるかわからないうちに、広げた彼の翼からまた一枚羽が落ちた。 「本来なら、天使に寿命なんてないはずなのになぁ」  自嘲気味に笑い、彼は落ちた自らの羽を摘み上げようとする。けれどそれは摘まむ前に砂のようにはらはらと崩れ、砂浜の一部と化した。 「ほうら、思った通り。コレ、アンタの見慣れた風景でもあるんだろ」 「だから、なにがよ」 「謎解きくらい、いいだろう? どうせ最期なんだ。楽しみの一つくらいあっても良い」  足を組みなおし、堕天使は私に向き直る。 「一つ答えてほしい。この砂浜というかこの世界全部、もともとは天使だろう?」 「……さぁ、どうかしらね」 「答えてくれないな」  残念だー、と彼は嘘っぽい様子で言った。 「ほかのなら、答えてあげるかもね」 「ほかの……なら、これはどう。あの雲が天界に繋がっているって」  堕天使は「これならいいだろう」と言わんばかりに指で空に浮かぶ雲を指す。 「どうかしらね」 「じゃあ、これは。堕天使は全員、実は地界じゃなくてここに送られる」 「さあね」  答えてくれるって言っただろう、と彼は眉根を寄せて文句を言う。その姿さえも整っているのだから、美貌とは時に罪なものであると感じてしまう。 「答えるって言っただけよ」 「ずるいなぁ」  そう言いながらも彼は完全に不服そうなわけではなく、寧ろ私を見て面白そうに笑っていた。 「ならさ――……!?」  目の前にあった彼の顔が、言葉を発している途中で急に視界の中で傾いた。驚いて見ると、先ほどまではあったはずの羽がほとんど骨になっており、彼のキトンや足が砂に変わり始めていた。  ――さらさらと変化する砂が、彼の上半身を支えきれなくなったのかな。 「なんだか変化が早いな……アンタ、俺が世界を暴くの、不満?」 「別に。それで、なにを言いかけたのよ」 「ん、これが最後の暴きだってこと。アンタがもともとは神で、堕ちたら魂ごと消え去る堕天使を見て可哀そうに思った。そこでアンタ自らが堕ちて、地界でも天界でもないここに、堕天使の墓を創ったってね」  これで完璧だと言った彼は、その体のほとんどが砂に変化し、かろうじて頭部が残っているだけだった。
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