白い世界

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「理想像?」 「今は堕天使だから」  堕天使は、神の怒りを買い、天界から落とされた天使。もしくは自分の意志で堕ちた天使のことだ。  同じ「天使」という言葉が入っているのに、先ほどとは真逆に口をへの字に曲げる。それでもやはりその美貌は崩れない。 「堕天使って……」 「アンタ、俺が天使って言葉を言っても変な反応しなかった。だから、言った」  視線を真っ白な水平線へ向け、そして白い空に浮かぶ雲へ向けた。 「俺、ホントはあそこにいた」  砂に天使を描いた指がゆっくりと空を指す。 「雲の上?」 「違う、天界」  天使、もとい堕天使は腕をだらりと下げ、ぽつりと言葉を放つ。 「神様の怒り、買っちゃったみたいで」 「相当なことしたのね」  神の怒りを買うとは、相当のことである。  反逆したのか、天使ということにおごり高ぶったのか……。なんにせよ良いことではない。 「なにが悪かったのか、自分でもよくわからない」 「堕とされる前に何したか覚えてる?」 「さあ」  首をフルフルと横に振りながら彼は答える。 「でも、神様に『堕ちたら消滅する』みたいなことは言われた気がする」 「けれど貴方、消滅なんてしてないじゃない」  すると彼は、無言で着ていたキトンの上半身部分を脱いだ。現れたのは、人間ではありえないようなシルエットの背中。  そこには、畳まれた翼があった。 「羽……?」 「うん」  少し離れて、というアイコンタクトを送られる。その意をくみ取った私が数歩離れると、彼はその羽を大きく広げた。 「真っ白で綺麗……だけど、どうしたのよこれ?」  その羽は、腐った木の枝のようにボロボロだったのだ。  羽根が抜け落ちボロボロで、ところどころに骨が見える。その骨も、一部が欠けていたり割れていたりとひどい状態である。 「天界から堕とされたらこうなった。これじゃ、もう飛べない」  彼はキトンを着なおすと、「それに」と悲しそうに足を抱えた。 「俺自身ももうすぐ、消える」 「なんで」 「なんでって……。アンタが一番よく知っているくせに」  堕天使はふっと微笑を浮かべ、抱えた足に頭をのせた。
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