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碧い記憶
今まで私が天界で見てきた堕天使は、堕とされる最期の最期まで「神が悪い」の一点張り。
だから神の怒りを買うのだろう。
「天使としての自覚がない」と。
だから嫌だった。
無慈悲な神も、繰り返す天使も。
私は、死に際に「ありがとう」という感謝を述べた彼を思い出してみる。ミカエルは、本当に不思議だった。
彼の謎解きが事実を実に的確に答えていた。彼の謎解きというのは、この世界の事実だ。ただ一つ答えていないとするのなら。
ここで消えた天使は、私が気に入ったらまた記憶をそのままに天使とすることができるということ。
そのあと、私はなぜ彼が神の怒りを買ったのか考えようとしたが、その必要性はなかった。
――きっと、ミカエルが私について調べてくれたのね。
私は自分の意志で天界から降りたから、神以外に私は「行方不明」というだけだったと思う。けれど、彼は「天界から降りた女神様」と具体的に示してくれた。その時点で、私の存在をしっかりと知っていたのだろう。
名を聞いたのも、自分の考えがあっているか知りたかったからなのかもしれない。
「……本当に」
不思議で不思議で、頭のよく回る天使だった。だからこそ、
「なんで、堕ちるようなことをしたの」
あんなに頭の回る天使だ。秘密にされている私の情報を探ったら、すぐ堕とされるという可能性がわかったはず。なのに調べて、堕ちてきた。
彼がいなかったら、私は永遠に自分が誰かわからなかったかもしれない。けれど、彼にはなんだか消えてほしくなかった。
私は彼ほど頭が回らないから、彼がどうしてそんなことをしたのかわからない。けれどこれは分かる。ミカエルは、また堕天使としてここへ来るのだろう。
私は、私以外に人影のない白い世界を見渡す。
自分の羽は、もうずいぶんと前に朽ちてしまった。
そんなことも、きっとミカエルは知っていたはずだ。だからまた同じ過ちを犯してでも来てくれる気がしている。
ここには他の堕天使も来るから。堕天使の終の棲家はここだから。ここでとどまっていては、私は彼に気づけない。だから、また探しに行く。
堕天使たちの屍が積もりに積もったこの世界で、私は一体何を思えばいいのだろうか。
真っ白い記憶の中で、” 私 ”という存在に輪郭線を引いてくれた碧い瞳の持ち主を、私はまたここで白い砂へと変貌させるのだ。
その碧い瞳だけでも、年月に蝕まれているこの記憶の中で、永遠と輝いていて欲しかった。
私はまた歩く。
そうしてまた、幾度となく砂に変えた彼を探しに行く。
私の記憶は年月とともに消え去るから。
そのたびに彼は来てくれる。
……あれ、彼って誰だっけ。
私って、誰だっけ。
白い世界の中の碧色しか、私はいつも思い出せない。
――あれ……いつもって、いつからだっけ……?
私はずっと、この白い世界の理しか憶えていられない。
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