コイゴコロは一冊から

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コイゴコロは一冊から

 十八歳。高校三年生が、否応なしに直面する問題がある。  そう、受験だ。高校受験だけであんなにキツかったのに、何故嫌で嫌でたまらない勉強をしてまで大学受験をしなければいけないのだろう。あたしはどうしても納得がいかなかった。良い大学を出なければ良い企業に就けないとは言うが、そんなもん一昔前の話ではなかろうか。  自分は別に、政治家だの官僚だの、はたまた企業の社長だのを目指しているつもりはない。なんなら一流企業の就職とやらもどうでもいいことだ。それなりに食べられるお金が稼げれば普通の会社でいいし、というか本音を言うと退屈な事務職だの軽作業だの接客業だのをして生活するという人生自体がダルい。  もっと楽しくて、ラクに稼げる仕事はないものか。  でもってそういう仕事に、大学受験なんぞ面倒なことしなくても就くことはできないもんか。 ――わかってんだけどさあ、現実逃避だってのは。  ああ、想像するだけでげんなりする。  元より、お世辞にも頭がいいとは言えないあたしだ。中堅高で、成績は下の下。なんなら留年しそうになったこともちらほらと。教師たちだってあたしが良い大学に入ることなんか期待していないのに、何で親はそれでもいい大学を目指せ勉強しろとしつこく言ってくるのだろうか。  しかも、今はまだ春。つまり、あと一年近くこの状況が続くのだ。考えるだけで疲れてしまうというものである。 ――あー嫌だ嫌だ。勉強なんかさあ、得意な人や好きな人だけやってりゃいいじゃん。どーせ、ここで学んだことなんかすぐ忘れちゃうってのに。  元々帰宅部なので、部活なんでものはない。  親には週二回、塾をねじこまれてしまった。そして塾がない日も、一日中家に押し込められて監視されながら勉強しなければいけないのである。一体どこの誰だ、リビングで親が見張りながら勉強させるのがいいなんて言い出した馬鹿は。おかげでうちの親も看過されて、可能な限り家ではあたしを見張っていようとするではなか。  そんな状況で、早々に家に帰りたくなるはずがない。  ゆえにあたしは塾がない日は、理由をつけて遅く帰ることにしているのだった。理由。――親が反対できない理由など限られている。つまり。 『図書館で勉強してから帰るからー』  これである。  図書館は勉強をするところ、本を読むところ。  そういう認識が強い、ちょっと古い頭の母親はその理由で渋々納得してくれる。  まあ正直、多少疑いは持っているのだろうけど。
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