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「……レオンハルトさまは、お優しいですね」
「え?」
「私の歩調に合わせてくださっていますもの。嬉しいですわ」
にこっと微笑んで見せると、レオンハルトさまは照れたように頬を染めた。
「紳士として、当然のことですよ」
さらっと言っていたけれど、その当然のことをさらっとできるのが真の紳士なんですよ、きっと。
なんて、心の中でつぶやきつつ、歩くこと数分。
レオンハルトさまが、ぴたりと足を止めた。
「つきました」
「わぁ……!」
思わず出た感嘆の言葉に、慌てて口元を隠す。
レオンハルトさまは、そんな私の様子を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
王都にこんなところがあったなんて、知らなかったわ……!
学園に通っていたときは中央通りくらいにしか行かなかったものね。
ここまで来ることはなかった。
だから――こんなに咲き誇るチューリップの花々を見ることは、初めてよ。
「もっと近くで見てみませんか?」
「は、はい……」
色とりどりのチューリップ。
その光景に目を奪われていると、レオンハルトさまが声をかけてくれた。
ハッとしたように顔を上げると、とても優しい顔をしている彼が、私を見つめている。
ふと、こう思ったの。
もしかしたら、彼は――王都のいやな思い出を、良い思い出に塗り替えようとしてくれたのではないかって。
私の予想だから違うかもしれない。
でも……そうだとしたら、なんて優しい人なのかしら。
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