Prologue.目覚め

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Prologue.目覚め

 どうしてこんなことになったのだろう。  見えない何かに身体を縛られたまま、俺はもう何度目かわからない自問をしていた。  動けずにいる俺を豪奢な椅子に座ったまま見つめているのは、一瞬だけなら少女と見紛うような美貌を持った金髪碧眼の少年。  午睡からの目覚めを促す陽光を思わせる柔らかなブロンドの髪に、水平線を望む海景を思わせる瞳が眩しい。  膝を組んだ脚は艶やかで、全身を包む白いローブの隙間からは、細身だが華奢すぎない身体が見え隠れしている。  町中で見たら、誰もが振り返るような美少年。あどけなさの残る顔には似つかわしくない嫣然とした微笑みは、俺の奥底まで見透かすようだった。  だが、少年にはその美貌を抜きにしても明らかに人間とは違う部分があった──目が眩むほどに光り輝く二(つい)の翼と、見るだけで身が(すく)むような輝きを放つ光輪。  そして、俺を縛る不可視の物体に、見覚えのない真っ白な空間。  恐怖すら抱かせる静謐さを湛えた空間でただひとり微笑む少年──ウリエルの姿は、紛れもなく天使のもので。 「怖がらなくていいんですよ、慎吾(しんご)さん。僕は慎吾さんを幸せにしたいんです。あなたの清い心が汚れないこの園で、僕のもとで永遠に……ね」  こんな状況なのに、耳を侵すボーイソプラノは耳心地がよくて、怖いと思えない──それが、たまらなく怖かった。  だって、心底愛おしそうに俺を見つめて笑うその眼差しには、きっと何を言っても聞き入れられない。  いやというほど理解してしまった俺に。  もう抗う気力なんて残っていなかった。
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