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「ごめん、大丈夫だから」
僕はいつも、こう言って友人の安堵を得ようとする。でも、本当のことなんだ。これは友人は全く関与していなくて、僕自身が抱えている問題だから。
そしてそれを、ずっと解決できていない僕の未熟さでもある。
朧げに過ごしている僕を横目に、友人とは笑顔で別れていくのが普通の日常だった。
そんなときに、噂が広まっていた。
きっと誰かが冗談で、悪ふざけで言ったことでしかない噂だったけど、なぜだかそれは、無性に心を惹きつけた。噂に騙されるのは羞恥になるが、信じないよりかはマシだったから。
僕の住む街には廃墟がある。生まれる前からずっと存在していて、両親や街に長く住んでいる知人に尋ねても、何に使われていたのか教えてくれなかった。いや、そもそも誰も知らなかった。
謎に包まれていたそこは、近頃は子どもたちの肝試しに使われていた。うっすらと月明かりが差す真夜中に、廃墟を一周してスタート地点に戻ってこれたら大人に一歩近づけるという、いわばこの街の通過儀礼のようなものになっていた。
当然、そんな通過儀礼を突破できなくても、高校生にはなれる。
初めて足を踏み入れる廃墟は、風が吹くと枯れ枝が音を立てて唸り、反響して魔物のような鳴き声が聞こえてくるようなところだった。昼間だというのに、まるで夜のように薄暗い。歩みを進めていくたびに地面に足を吸われていくような感覚には、怖気が走った。
立ち入ることができる場所は少ないが、廃墟はどこまでも広がるくらい大きいと耳にしていた。だけど、視認できるのは霧がかかっていないところまでだった。黒い霧は、まるで意思をもっているように動いていた。心なしか、僕に近づいているような気すらした。
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