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やばい……声が裏返ってしまった。
案の定、彼女は怪訝そうな表情で見上げてきた。ふっくらとした唇が開いたのを見て、思わず唾を飲み込んだ。
「なによ急に、改まって」
そして、彼女は教室にいたいつもの彼に視線を移した。
「それって、彼のこと?」
彼女の視線を追って確認した先には、ずっと彼女と一緒にいた男がいた。彼もまた端正な顔立ちで、クラスでの人気者の一人でもある。容姿は彼女と同様に、目を引くものがあった。
きっと、そういう関係なんだろうな……。どういう感じの返答がくることを、待っている僕がいた。
僕は彼女に小さく頷く。
すると、彼女は笑い声をあげた。結われた金髪が、蛍光灯の光を反射してきらりと光った。
「やだなあ、もう。もしかして、変なこと考えてた? ま、休み時間もほとんど一緒にいたんだから、無理もないか」
「え……違うの?」
張っていた肩が脱力した。反りすぎていた背筋も、元に戻っていく。
目にかかった前髪を耳にかけて、彼女は続けた。
「彼は委員会が同じなんだよ。来週になったら全生徒にアンケートを取ることになっていたから、その内容の相談をしていたの。今はちょうどアンケートも作成できたから、一緒にいる義理もないしね」
口元になにかが貼りついたような感覚がした。口角を上げたいのに、苦笑いするような表情しかできない。
ただ言葉を交わすだけでよかったんだ。彼女には全くと言っていいほど悪意はない。信用できなくて、懐疑心を抱き続けていた自分がアホらしい。膝から崩れそうになったが、なんとかして堪えた。
心に日差しが差したようだった。よかったあ、と心の内で何度も叫ぶ。
自分の中の決まりごとって意外と恐ろしい。
なんだ、解決するには簡単なことだったじゃないか。
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