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「……おい、起きろ」
耳元で声がして、重い瞼を持ち上げる。
全身が痺れるように痛かった。頭でも打ってしまったのか、視界もチカチカする。必死に地面に肘をつけて、上半身を起こそうと試みるが、力が入らずに倒れ込んでしまう。霧の中に吸い込まれた後に、一体なにがあったんだ?
誰かの声がした。ここに、僕以外の誰かがいる。地面に寝転がるなんて、無様な格好を晒しているわけにはいかない。うつ伏せになるように転がり込んでから、両腕に力を込めて地面を押し込んだ。パッと視界が開けたときに、その姿を捉えた。
わざとらしく作られた、王座として例えられるような立派な椅子に腰掛け、肘をついて不敵な笑みを浮かべている男が、そこにはいた。空虚な空気に飲まれるような真っ黒な服を着て、鮮血のような真っ赤な瞳が、僕を射抜くと言わんばかりに煌めいていた。
僕は息を飲んだ。
目を背けたくなるような容姿には、どこか心当たりがあるように思えた。おかしい、彼と会うのは初めてのはずなのに……。
「あなたが……天使さま、ですか?」
男の瞳に吸い寄せられるように、顔を上げる。
彼は笑みを浮かべたまま、コクリとうなずいた。
「ああ、その通りだ」
「願いをなんでも叶えてくれるという……?」
「……なんだ、そのよくわからない噂のような文句は」
「え……違うんですか?」
もしかして、本当に『なんでも願いを叶えてくれる天使さまの噂』は偽りだったのか?
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