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明らかに、目の前にいる男の容姿は『天使さま』ではなかった。優しさのかけらもないような口調や見た目、そしてなにより、すべてを抱擁してくれそうな柔らかい翼もない。僕が思い描く天使のイメージを払拭するような像に、心が打ちひしがれる。
「だいたい、天使に願い事なんてありゃしないだろ。神じゃあるまいし」
吐き捨てるように言った言葉に、僕は渋々、確かに、と口にしてしまった。
とはいえ、彼が天使だという確信を得てはいないものの、彼が神であるという可能性も捨てきれない。
だけど、じっと見つめれば見つめるほど、彼はただの人間であるようにしか思えなかった。素振りも、口調も、人間とそっくりだったから。きっと、天使なら天使だけができること——例えば、飛行するとか、できるはずだし。
「あの……天使さまって、翼はもってないんですか?」
「は? 人間は天使に対してどんな偏見をもってるんだよ。そんなの、自分で確認すればいいじゃないか」
ぞんざいに返答されると、はあ、とため息をついて目を凝らすしかなかった。どう見ても、翼なんてものはない。
もしかしたら、彼はただ天使に扮した人間だとか? 役者にしては、随分と不出来だな。
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