こころ

8/14
前へ
/14ページ
次へ
「残念だけど、俺にはその願いは叶える力はない。それに、それはおまえ自身の問題だろうがよ」 「……え?」  彼は僕の頭から手を離した。まだ髪の毛が引っ張られる感覚が残っている。  いざ彼を目の前にしてみると、背丈は僕と全く同じだということに気がついた。これは、ただの偶然だろうか。どうして、僕はこの姿に見覚えのあるような気がしているのだろう……。 「おまえは、自分をもっと見つめないとだめだ。なにもわかってない。彼女が自分にどんな思いを抱いているのか、考えたことはあるか?」  腕を組んで、鋭い目力で真っ直ぐに僕を見つめてくる。その威圧感のある佇まいに、僕は獲物になったような気がした。 「……いいえ」 「彼女たちを冷たい目で見てきたおまえの、胸の内にあった憎悪を見破れたか? 解決するためになにか自ら行動したか?」 「……いいえ」  膝が震える。頭の奥がチクチクと痛む。まるで針に無数に刺されているような感覚だ。教師や親に説教されているような気がして、身が縮こまる。  確かに、彼の言う通りだ。僕は誰かに甘えて、自分ではなにもしていない。むしろ、そんな可哀想な僕を演じて、誰かに引き留めてもらいたいと、心の深淵で願っていたのかもしれない。僕が気づかないくらい、深いところで。  彼の目は、僕の心まで見透かしていた。  数歩後ずさった彼は、俺を見ろと言うように両手を広げた。そうか、彼のとる姿は、僕を反映した姿だったのか。  チクリと、胸が痛んだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加