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画策
『おい、このニュース見てみろよ』
振り返ると井上はスマホの画面を見せてきた。
【チリの銅鉱山で爆発事故】
どうやら採掘中に事故が起き、多くの従業員が重軽傷を負ったらしい。
「痛ましい事故だな。死者が出なくて良かった。」
『それもそうだけど、これによって何が起こるか分かるか?』
「チリの景気が悪くなるな」
『そんな他人事じゃない。いま日本における銅の輸入先の5割はチリなんだよ。』
頭が良いわけではないのに、やたら雑学やらうんちくに詳しい人が世の中にはいる。井上がその代表例だ。
「なんでそんなこと知ってるんだよ。それに銅の輸入が減ったから何なんだ。」
『銅不足って言われたとき、一番身近な銅と言えば何が思い付く?』
「そうだな……10円玉か?」
『そうだ。つまりだな、銅不足がニュースになったとき、日本人はこぞって10円玉を集め始めるんだよ!』
「……それまじかよ!」
この頃の俺は貯金がほとんど無く、給料を貰っては1ヵ月で無くなる生活を送っていた。
簡単に言えば貧乏だからお金が欲しかった。
類は友を呼ぶとは言ったもので、井上も同じような状態だった。
『今のうちに10円玉を集めとけば、10円玉不足になったときに10円以上の価値で売れるって寸法よ』
「おまえ、そんなに賢いのになんで貧乏なんだよ」
『知るかよ、とりあえずいま何枚持ってる?』
「いまは、3枚だな」
180円の会計で230円を出すタイプの俺が10円玉を5枚以上持ってるはずがない。
『まじか、俺も2枚しか無いな』
「近くのコンビニで両替して貰うか」
『100円程度ならいいけど、あまりに大金だと怪しまれるだろ』
「そうだな、じゃあゲーセン行って両替機で替えてくるか」
『10円玉が出てくる両替機なんて見たこと無いぞ』
万策尽きたか…
『いや、待てよ。そもそも別に悪いことしてないんだから、普通に銀行で替えてもらえばいいんじゃないか?』
「それもそうか」
別に俺たちは銀行強盗をやろうって言ってるのではない。ただ10円玉が大量に欲しいだけなのだ。
「いくら両替する?」
『生活費を考えると、それぞれ2万くらいかな』
「これは絶対に勝てる博打なんだろ?次の給料前借りして5万円ずついこう!」
『いつになくやる気だな。分かった、やってやろうぜ!』
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