第二章「花言葉の言霊」

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 明日香は周囲の草木にそっと触れながら、どんどん前に進んでいく。時々、その草木の前に立ち止まったりしながら。  草木の前で明日香が何をしているのだろうと葵が覗き込むと、明日香はその草木を睨みつけているように見えた。え、何?・・・可愛い、けど、ちょっと怖い(笑)。 「明日香ちゃん、どうしてその草を睨みつけてるの?」と葵がきくと、 「草とお話しているの。もうちょっとなんだって。」と明日香は返す。  何がもうちょっとなの?と聞くのも野暮かと思い、葵はしばらく明日香の好きにさせようと思った。  しばらく明日香に手を引かれながら歩く。しばらくして、明日香がピタリと立ち止まった。ゴールへと至ったようだ。そこはちょっとした用水路に沿った細い道路。少しだけ土が残る場所から、しゅっと一本の植物が空へと伸びる。葵の顔の高さあたりに、その花が咲いていた。  その花を見た瞬間に、葵は「えっ・・・」と声を出してしまった。 「葵ちゃん、どうしたの?」明日香が不思議がる。 「ううん。明日香ちゃん、このお花の名前、知ってる?」 「お花に名前があるの?」 「例えば、ヒマワリさんとか、チューリップさんとか」 「ふうん、名前、知らない」 「そうなんだ。このお花の名前はね、タチアオイって言うの。」 「ふうん」 「私の名前、葵って言うでしょ?私の名前は、このお花からもらったの」 「葵ちゃんの名前、お花の名前って可愛い」 「ありがとう。そのお花を明日香ちゃんが見つけてくれて、ちょっとびっくりしちゃった」  と、明日香が思い出したように、話を続ける。 「あのね、葵ちゃんが、このお花と挨拶したらいいんだって。ほかの木やお花も言ってた」 「挨拶?」 「うん。あたしが挨拶させてあげる」  そう言うと明日香は、左手で葵の手をとった。それから右手で、タチアオイの葉に優しく触れる。  その瞬間・・・何かがドクンと葵の中に流れ込んできた。自分の眼に力が宿り、手と足に力がみなぎってくるのが分かる。身体には熱を感じる。葵は思わず、手をサッと引いてしまった。 「明日香ちゃん・・・、何をしたの?」 「お花と挨拶した」 「じゃなくて・・・」と言いかけたが、明日香があまりにも日常と変わらない表情をしているので、葵はそれ以上、聞くことをやめた。  今のは一体、何だったんだろう。  しかし、明日香にはそんな自覚もないようで、好きなように話を続けてくる。 「葵ちゃん、このお花、まっすぐ前を向いてて可愛いね」 「・・・うん。そうだね。この花の咲き方から、タチアオイの花言葉には『威厳に満ちた美』とか『大望』とかがあったと思う。」半ば、独り言にも近い形で、葵は花言葉を口にした。  でも、このタチアオイと違って自分なんか・・・と、いつものマイナス思考を働かせようとした・・・が、今日はなんだか違和感を感じる。特に『大望』という言葉に今の自分は波長がピタリと合う気がした。  もしかして、私、花言葉のエネルギーを注入されちゃったの?  葵は改めてしゃがみ、明日香と目線を合わせながら少し質問をしてみた。 「ねぇ、明日香ちゃん。本当にお花とお話ができるの?」 「うん。お花とお話するよ。でも、秘密なんだって。コトリママが言ってた」 「そう・・・。私ね、このタチアオイからたくさん元気をもらっちゃった。ここに連れてきてくれた明日香ちゃんのお陰かも」 「うん。だって、あたし探偵さんなんだから」  葵は「あ、本当だ。そうだったね」と言いながら、あははと笑ってしまった。 「葵ちゃん笑った。可愛い。」明日香はそう言って、葵をギュッとした。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「葵ちゃん、ごめんね。明日香とたくさん遊んでもらっちゃって」  葵と琴音らが合流してすぐに、琴音は葵をねぎらった。 「でも、葵ちゃんの表情がすごく明るくなっていて、びっくりしちゃった」 「ううん。この小さな探偵さんが元気をくれたので、私にとっても大収穫でした。」そう言って葵は、明日香と目を合わせて微笑んだ。
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