第四章「月見草の導き」

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「すみません!娘がご迷惑をおかけしてしまったようで・・・」  琴音は男性のほうへと駆け寄り、すぐに娘の非礼を詫びた。 「いえ、僕のほうこそ、すみません。・・・怪しいですよね、こんな場所で泣いているなんて。」男性はハンカチで涙を拭きながら、弁明する。見たところ、30歳前後だろうか。 「どうして泣いているの?」 「明日香!・・・今はお兄さんをそっとしてあげましょう」  空気を読まない娘の行動を、母としてたしなめる。 「いえ、いいんです。・・・明日香ちゃん、でいいのかな?・・・僕のお嫁さんが病気になってしまって、それで泣いていたんだよ。」そして、琴音のほうを向いて、自分の胸のあたりを指さしながら「ここのガンなんです。」と付け加えた。 「4日前に病院でガンが判明して、ステージIIIの可能性が高いと言われてしまって・・・。現在は病院側で治療法を検討中で、嫁もまだ自宅にいるんですけど、嫁が眠りについてから家の外をこうやって歩いているんです。まずは、自分自身が心を落ち着かせないと、と思って。・・・でも、この白い花、見えるでしょう?なんか、嫁が好きな花に似ていて。この花が慰めてくれているような気がしたので、感極まってしまって・・・」 「そうだったんですね。・・・病院の治療、うまく進むといいですね」  何の気休めにもならないことは分かっていたが、琴音はそのような返答しか思いつかなかった。そこに、明日香が言葉をはさむ。 「このお花がね、泣いている男の人を助けてあげてって言ってたの」  明日香の言葉を聞いて男性は少し驚いた顔を見せたが、すぐに優しい微笑みへと戻った。 「じゃあもしかして、明日香ちゃんは、僕を助けるためにここで待ってくれていたのかな?」 「そうだよ!」 「・・・子供って不思議ですね。」明日香との短いやりとりに癒されたのか、男性は優しく笑ってくれた。
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