第四章「月見草の導き」

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「コトリママ、この人をコーヒーで助けてあげて?」 「コーヒー?何かそういったことをされているのですか?」  明日香の提案に、男性は興味を持ったようだ。明日香が母親の仕事についてちゃんと分かっていることを知って、琴音は少し新鮮さを覚えた。 「はい・・・、薬草珈琲というものをテーマにカフェをやっているんですけど、基本的には病気になる前に体調を整えることがメインなんです。なので、ごめんなさい、このような場合にはあまりお役に立てないと思います」 「・・・ちょっとしたヒントでも良いので、何か生活面でできることなどありませんか?」 「・・・分かりました。普段、ご家庭でお茶って飲まれます?」 「いえ、二人ともお酒か水、ですね・・・。もちろん、診断を受けてからはお酒は飲んでいませんが・・・」 「では、ご自宅で水の代わりに飲むお茶という形で、薬草茶の作り方をメモさせていただくので・・・よければスマホをお貸いただけますか?」  琴音は男性のスマホを受け取り、三種類の薬草の入った薬草茶の作り方をメモとして残した。 「この一番上にメモしているクマザサですが、マウスの実験でガンの抑制効果が認めらたという論文があるのですが、それは確か、20年以上前の古い研究で、もしかしたら最新の研究では否定されている可能性もあります。マウスへの投与方法もたぶん、口からではないと思います。さらに、別の報告で、クマザサを摂取しすぎたために体を壊してしまったという報告もあるので、あくまで日常的に飲むお水の代わりとしてお飲みください。ここに記載した量を大幅に超えることは、絶対にしないでくださいね。薬草って効くときは結構効くのですが、効かない時は全く効かないので。日常的な飲み物を、ちょっとした健康茶に変えてみるという認識でいただければと思います。・・・そのあたり、お約束いただけますか?」 「分かりました。あくまで日常的に飲むお茶ということで、飲みすぎないようにします。丁寧に教えていただきありがとうございます」  男性は会釈して、来た道を戻っていった。 「明日香、今日も探偵さんのお仕事、頑張ったね。でも、他の人に声をかけるときは、先にお母さんに教えてね」 「わかった」  琴音はその場にしゃがみ、珍しく満面の笑顔の明日香の頭をヨシヨシと撫でた。この子は家を出る前から、あの男性が来ることを予期していたのだろうか。そんな疑問が頭によぎったが、それは胸の内に留めておくこととした。  そして琴音は少し振り向き、足元の月見草に少し手を触れて「ありがとうね」と伝えた。すると、月見草も少しだけ明るい輝きを放った。
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