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水曜日の午前。薬草珈琲店が休みということもあって、琴音は明日香と自宅で過ごす事とした。
今、目の前で明日香がピアニカを練習している。曲目は保育園で習ってきた『チューリップ』だ。Cメジャーの明るい曲調は、この世の憂いをまだ多くは知らない小さな子供たちにピッタリだ。
「コトリママ、ここ、手が変になる」
気づくと、明日香がこちらをじっと見つめてきている。どうやら、曲の後半で手間取っているようだった。
「明日香、どうしたの?」
「ここ、手が変になるの」
明日香は、チューリップの『どのはなみても』の『みて』の部分でつまづいているみたいだった。
「あ、ここだけラの音が入っているね」
「手が変になる」
ドレミファソにそれぞれ親指から小指を対応させると、ラの部分だけ手の位置を変えなくてはならない・・・なんてことは琴音にも分からなかった。
「どうやったら上手く弾けるかなぁ・・・。あ、そうだ。最近、音楽に詳しい人がお店に来てくれたから、今度、また聞いてみるね」
「うん」
明日香のピアニカを聞きながら、琴音は奥野ヒロユキについて検索してみた。動画サイトにライブの映像がいくつもアップされている。
ちょっと憂いのある顔。・・・大切な人を亡くした人の顔だ、と琴音は直感的に思った。母を亡くした自分と、少しだけ同じ香りがする。
「その人、何の人?」ふいに、真横から明日香の声がした。
「あ、明日香。この人、昨日、お店に来た人なの。さっき言った音楽に詳しい人。こんな風にギターを弾きながら歌を歌っているお兄さんみたいだね」
「ふうん」
二人でお昼ご飯を食べていると、葵から「ちょっと緊張します」とメッセージが来た。今から奥野ヒロユキと会うのだろう。
「楽しんできてね」と送ると、すぐに「頑張ります!」と返ってきた。
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