第五章「草木花の音階」

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「うそ。葵さん、奥野ヒロユキとプライベートで会ってるの?」  金曜日の晩。彼氏と二人でときじく薬草珈琲店に遊びに来た山科真帆は、はとむぎラテを吹き出しそうになりながら葵の近況報告に反応した。  真帆は花言葉ナイトのイベントで葵と仲良くなって以来、定期的に店に遊びに来てくれている。また彼女は、そのイベントのことを奥野ヒロユキに伝えたことで、ヒロユキと葵を引き合わせるきっかけを作った張本人でもある。 「でも、二重の意味でびっくりやわ・・・」  意味深な真帆の言葉に葵は反応し、首をかしげながら、次の発言を待つ。 「私にとって奥野ヒロユキはステージの上の存在だから、そんな人が身近な人とプライベートでつながったことにびっくりしたのが一つ」 「それは、私もびっくりだったよ。まぁ、イベントとかやってみるもんだなぁと思った次第」 「うん、なるほどね。もう一つは、彼は女性アレルギーで、女性と二人で会うことは避けてるって聞いてたから」 「・・・それだけど、私は女として見られてないみたい笑」 「え?なにそれ笑」  会話の流れで、葵は水曜日のやりとりを真帆に話した。 「いいやん。なんかそれ、脈あり的な感じじゃない?」 「そんな、まだ数日しか会ってないよ?」 「いえいえ。恋に日数など関係ありません。・・・だよね?」  急に話を振られた真帆の相方は、愛想笑いをしながら急いでうなづいた。花言葉ナイトのイベント以降、どうも真帆の彼氏はおとなしめだ。 「でもね、奥野ヒロユキは学生時代の彼女に酷いフラれ方をしたらしくて、音楽しながらもずっと女性との付き合いがないらしいの。だからファンの子たちは、我こそが奥野ヒロユキを癒す女なんだ、みたいな感じで頑張っているんだけどね」 「そうなんだ・・・」 「奥野ヒロユキが葵さんに癒されて、葵さんも奥野ヒロユキに癒される。なんかそれ、いい感じじゃない?」 「まぁ、ヒロユキさんさえ良ければ・・・」 「うん?てことは、葵さん、まんざらじゃないんだ」 「あ、真帆さんにはめられた!」  一通り笑った後で、今度ライブに一緒に行こうねと約束をして、真帆とその彼氏は店を後にした。
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