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第二章「花言葉の言霊」
関口葵(せきぐちあおい)は、これまでずっと悩んでいた。
目立たないように大人しい服装を着て、顔が少しでも隠れたらとメガネをいつもかけている。うつむき加減で、陽気・・・とは程遠い表情だ。
彼女はときじく薬草珈琲店のバイトとして働いていて、今年で5年目。それだけの長い間、働いているのに、なかなか接客業に慣れなかった。彼女は、いわゆる人見知りというやつだった。
しかし、店長の子供と経験した不思議な体験をきっかけに、最終的にはその人見知りの呪縛がガラスのように「砕け散って」しまった。これはそんな、葵の成長の物語である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
近鉄奈良駅から南へ10分ちょっと下ったところに、ならまちという歴史的景観地区がある。今でも伝統的な町家が立ち並び、木製の格子の風景がそこを通る者を過去の時代へとタイムスリップさせてくれる。
そんなならまちの一画に、ときじく薬草珈琲店はあった。店長の琴音、バイトの葵がメインの働き手。昼間だけ、真奈美という年配の女性がパートで働いている。
店長の琴音が娘の明日香を出産する数か月前、葵はときじく薬草珈琲店で働き始めた。葵は女子大学に入学したばかりだったが、そこでも昔からの人見知りは解決しなかった。そのため、ちょっとでも人の役に立ちながら、人に接する練習が出来ればと期待しての入店だった。
持前の真面目さと頭の良さのおかげで、店の仕事はすぐに順調にこなせるようになっていった。また、薬草の取り扱いを通して、客の体調を改善することにやりがいも感じるようになった。
しかし、当初の目的であった人見知りの改善に関しては、まだまだ解決には至っていなかった。
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