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まぁでも、昔に比べたら人見知りの症状はマシになったものだ。かつての私だったら、こんな状況に陥った時は・・・いやいや、思い出したくもない。でも、このままじゃダメなのは分かっている。
琴音さんがちょうど良い相談相手なんだろうけどなぁ。変に気遣ったりもせず、優しく冷静に意見をしてくれそう。でも、どんな風に声を掛けたらいいのかなぁ・・・。
そんなことを考えながら葵は午後の仕事を進めていたのだが、閉店間際に琴音のほうから声をかけてもらえたのはラッキーだった。
「葵ちゃん、お疲れ様。今日はお客さん多かったけど、大丈夫だった?疲れてない?」
「はい・・・疲れてはいませんけど・・・」
「ん?・・・けど?」
「・・・。」相談を持ち掛けるチャンスなんだけど、肝心なことを口に出そうとするとウッと息が詰まり言葉が出なくなる。
「あ、そうそう。葵ちゃん。明日って、時間ある?」
「はい、ありますけど・・・」話の切り替わりに少し驚きながらも葵は返答する。
「ありがとう。よかったら、奈良公園で散歩でもしながら、店のことを相談できたらと思って」
「相談・・・」
「うん。詳しくは明日、話すから」
葵にとっても、これは自分のことを相談できるチャンスだった。でも、リアルな相手を目の前にすると言葉が詰まってしまうことは目に見えている。だから、事前に相談内容を琴音に送っておこうと思った。
夜、自宅で文章をしたためる。『琴音さん、実は私も明日、相談したいことがあって。少しお時間をいただいてもよろしいですか?』と打ち込む。画面にはその文字列が映っている状態だ。
送信ボタンを押せばそのメッセージは琴音に届いてしまう。今、琴音さんは何をしているんだろう。迷惑にならないかな?または、変な連絡が届いて、変に思われないだろうか。
ダメだダメだ。そうやって止めてしまっていたのがこれまでだ。一歩、進まなくちゃ。葵はそう思い、エイと送信ボタンを押す。・・・あぁ、私、送っちゃったよ、と思う。また、体の中でお湯が沸き始める。
でも、しばらくして、琴音から返事が返ってきた。その文字列を見て、葵の顔がほころぶ。『OK~。じゃあまた、明日ね』
いつもの、簡素ではあるが優しい琴音の返答だった。
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