第二章「花言葉の言霊」

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 晴れた日曜日、14時。  琴音が指定した場所は、東大寺の北西すぐにある大仏池のほとりだった。そこは人も鹿もあまり訪れず、美しい湖畔を静かに楽しめる隠れスポットである。秋には紅葉が映え、冬が訪れる前にはイチョウの葉の黄色いカーペットがその場を美しく飾る。  少し早く着いたかなぁと思って葵がぶらぶらとしていると、そこで遊んでいた親子三人のファミリーが葵のほうへと近づいてくる。よく見ると、琴音の一家だった。 「葵ちゃん、遊ぼ~」  一番乗りは、琴音の娘の明日香だ。少し遅れて、琴音と琴音の相方が到着する。 「明日香ちゃん、久しぶり。またちょっと、大きくなったね」 「うん。あたし、ちゃんと寝てるもん。寝たら大きくなるってコトリママが言ってたよ。葵ちゃんはたくさん寝たから大きくなったの?」 「まぁ、そんなに大きなほうではないけど、一応、たくさん寝たかな笑」  明日香からすると葵は、物心をついた時からずっといる、身近な優しいお姉さんだ。葵も明日香を生まれた時から知っており、姪っ子と接しているような気分、だと自分では思っている。 「葵ちゃん、ごめんね。明日香の前で今日のことをちょっと話しちゃって。そうしたら、葵ちゃんと遊びたいって言って聞かなくて・・・」 「いえいえ、全然。私も明日香ちゃんの顔を見ると癒されます」 「うん、ごめんね。」と言ってから、明日香に「お母さん、葵ちゃんと少しお話があるから、ちょっとの間、パパと遊んでいてね。」と告げる。 「うん。仕事のお話でしょ。いいよ。」明日香はそう言うと、パパの元へと向かっていった。 「明日香ちゃん、いい子ですね」 「うん。母親の私が言うのもあれだけど、結構、物分かりが良くて。口数は少ないんだけど、いろいろと分かっているみたい」 「うん。分かります」  明日香とパパを見送りながら、二人は少しだけ、明日香の余韻に浸った。
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