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「じゃあ、まず、葵ちゃんのほうからでいい?私のほうは、もしかしたら葵ちゃんの話によって変わるかもしれないから。」湖畔を歩きながら、琴音が話を進める。
「はい。・・・えっと。・・・どう言ったらいいんだろう」
「・・・時間はあるから、言えるって思ったタイミングで言ってくれたらいいからね」
「ありがとうございます。・・・でも、言います」
「うんうん」
「お気づきかもしれないんですけど、私、・・・人見知りで・・・」
「うん」
「ずっとこのお仕事を続けたいんですけど、どうやったら克服できるのかなって、琴音さんにアドバイスもらいたかったんです」
「うん、なるほど。そかそか。」そう言う琴音は、なぜか微笑んでいた。
「そのこと、何年か前に私の友人に相談したことがあってね」
「友人って、いつもいらっしゃってる凛さんですか?」
「そうそう。凛ちゃん。彼女が人の心に詳しくて。人見知りみたいなものは心の深いところから来ているものだから、何かをやってパッと治るもんではないって言ってて」
「やっぱり、そうなんですね・・・」
「でも、今日、葵ちゃん、自分からそのことを話してくれたでしょう?」
「はい・・・かなり、頑張りました」
「うん。葵ちゃんは自分の弱みを他の人に話すことができました。それが出来たら、半分は解決に近づいたことになるんだって」
「ええっ、そうなんですか?」
「これまで、そのことを人に打ち明けられずに悩んでいたんじゃない?」
「確かに。そうかもです」
「今の気分は?」
「あ、少しだけ気が楽になってます」
「そう?良かったぁ・・・。凛ちゃんの言ってたアドバイス、私もこれでやっと理解できたよ。」そう言うと、琴音はホッとした笑顔を見せた。
「凛さん、すごいですね。」
「ねぇ、葵ちゃん。仕上げをしよう。言えそうだったら、もう一度、『私は人見知りです』って言葉に出してみて」
「分かりました。コホン。私は・・・人見知りです」
「でも、葵ちゃんは素敵な人。」琴音が言葉を重ねる。
「葵ちゃん、もう一度」
「はい。私は人見知りです」
「でも、葵ちゃんは、私の大切な仲間。」また、琴音は違う言葉を重ねる。それを聞いた葵は、ちょっとだけ、涙腺が緩んでしまった。
「琴音さん・・・、なんだか、胸につかえていたものが少し、取り除かれた気がします。本当に・・・ありがとうございます」
「うんうん。良かったぁ。私もずっと、葵ちゃんが自己開示してくれるのを待ってたんだ。それまではそっと見守ってあげたほうがいいって凛ちゃんが言ってたから」
「そうだったんですね。」そう言う葵は、ちょっと罪悪感を感じる。琴音さんは人に興味がない人なんかじゃなくて、むしろ私のことを見ていてくれたんだ、と。
「よし。また、このこと、凛ちゃんに報告しておくよ」
「はい。でも、琴音さんと凛さん、本当に仲がいいですよね」
「まぁ、もう、長いからね。中学の時からだから」
「いいですね。なんか、うらやましい」
「ふふ。話が元に戻るけど、葵ちゃんの丁寧なアドバイスを気に入っているお客さんも多いんだよ」
「えぇっ、そうなんですか。自分では気づかなかったです」
「うん。なぜかそのことを、みなさん私に報告してきて笑。自信を持って、なんて言葉は無責任に言ったらダメだとは思うんだけど、葵ちゃんは私が誇りたい薬草珈琲店の仲間だってことは声を大にして言いたいです」
「純粋に、嬉しいです。」葵は少し、表情をほころばせた。
話が一区切りついた。ということは、次は琴音からの相談となる。
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