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「じゃあ、私の話に移るね。・・・これまでも何度か、葵ちゃん、いつかは自分の店を持ちたいって言ってたけど、それは今も同じ?」湖畔を歩きながら、琴音が話をさらに進める。
「はい。・・・自分のことを認めてくれる仕事仲間と、お店を好きだと思ってくれるお客さんに囲まれながら仕事ができるのは心地よさそうかなって思ってます」
「うんうん。なるほど。・・・ただ、葵ちゃんの大学だったら、周りのお友達は大手のメーカーなどに就職した子も多いんじゃないの?あとは大学院に進んだ子とか」
「そうですね。そういう子のほうが多いですね。私も一応、就職活動を少しはしていたんですけど・・・」
「そうだった。2年前くらい、時々、休んでたもんね」
「はい。でも、なんかしっくりこなくって。それで振り返ったら、ときじく薬草珈琲店で働いているときが一番しっくり来てたっていうか」
「そうだったんだ・・・」
「はい。なので、どこかの会社に就職する場合は少し不利になるかもしれないんですけど、もっと本格的にこの店で働いてみようって思ったんです。自分のしっくりきている感覚を言葉にできたらって思って」
「なるほどね。で、どう?できそう?」琴音は笑顔で、葵の顔を覗き込む。
「うん。最近、やっと、見えてきたんです。・・・薬草珈琲の勉強って、私にとって、小さな宝物を貯めこんでいくイメージなんです。知識の一つ一つが、小さな宝物という感じで」
「おぉ、なんか素敵」
「それを、お客さんにお見せして、お客さんと一緒にささやかに、宝物を愛でるっていうか。その瞬間がやっぱり幸せで」
「なるほどねぇ。葵ちゃんって、人見知りなのに、人のことが好きなんだね」
「あ。言われてみたらそうかもです笑」
「そかそか。じゃあ、本題に移ります。もし葵ちゃんがちょっと違うかなと思ったら断ってくれていいんだけど・・・、葵ちゃんにときじく薬草珈琲店の店長を任せられないかなって思って」
「えっ、私が店長ですか?」
「うん」
「えっ、えっ・・・。想定外だったので、ちょっと頭がパニックになってます」
「うん。ごめんね、急に。・・・葵ちゃんがその申し出を嬉しいと思ってくれたら、引き受けてもらう形でいいから。細かいことは、追々」
「分かりました。ちょっと、色々と未来のことをイメージしてみます。でも、そうなった時、琴音さんはどうされるんですか?」
「実は、もしかしたら、東京に二号店ができるかもしれなくて。その準備と、あとは物販にも力を入れようかなと思っていて。もちろん、今のお店でも働き続けるんだけど」
「そうなんですね。琴音さん、やっぱりすごいなぁ。ご自身の夢に向かって着々と進化されているというか」
「色々とお声がかかったりして、それで物事が勝手に進んでいくって言うのが実情だけどね笑。葵ちゃんも、もし店長を引き受けてくれるんだったら、お店は自分の好きなようにしてくれていいから」
「なんか、夢が膨らみます・・・」
「うん。一緒に夢を追いかけようよ」
「何を追いかけるの?」
突然、大きな声がして、琴音と葵は後ろを振り返る。明日香だった。後ろからパパが申し訳なさそうに歩いてくる。
「あ、明日香。パパとのお散歩は終わったの?」
「コトリママは何を追いかけるの?」母親の声には耳を傾けず、明日香はもう一度、同じ質問を繰り返した。
「うん。私と葵ちゃんが、夢を追いかけるって話をしてたの」
「葵ちゃんも夢を追いかけるの?」明日香は葵のほうへと頭を向ける。
「うん。そうだよ。夢が逃げちゃわないように、追いかけるんだよ」
そのちょっとした言葉の“あや”を明日香は遊びの材料にした。
「あはは。じゃあ、あたしが葵ちゃんの夢になってあげるから、追いかけてよ~」
あははと笑いながら、明日香が葵を遊びへと誘う。
「あ、こら。私の夢、待て~」
葵も明日香の後を追いかける。急に取り残された琴音夫婦は、顔を見合わせてクスッと笑いあった。
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