天使から死にたそうな貴方へ

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「俺さぁ~今年で三十歳なのに、まだフリーターなんだよ」 「“フリーター”ってなんだ?」 「お前と一緒さ。天使になれない“見習い”なんだよ。 周りが次々と“見習い”を卒業していって、何なら結婚して、子供までいる奴もいて……。 何者でもない自分が情けなくてなぁ~。 もう明日を考えるだけで憂鬱になるから、何も考えたくなくて、ここにいるんだよ」 「・・・・・・」  見習いは“自分と同じ”だと思った。  背景や言葉の意味までは深く理解出来なくとも、自身の存在に悩む男の姿を自分に重ねてしまう。 「そりゃあ大変だったな。俺も似たようなもんだけどさ」 「お互い“見習い”だもんなぁ~! どうにかしようと思えば思うほど時間が早く経って、気付けば、もう三十歳(アラサー)だぜ?やってらんねぇよ、チクショー!」  項垂れる男。  見習いは空気を変える為に話題を振った。 「何かやりたいこととか無いのかよ? 例えば俺なら、“さっさと一人前に成りてぇ~!”とかさ」 「……“やりたいこと”?」 「そう!」 「有ったら、三十歳(こんなこと)になってねぇよ!チクショー!」 「……ひねくれたおっさんだな」 「悪かったな」 「じゃあ子供の頃の夢は?」 「ガキん頃も同じだったけどよ、やっぱ“安定”を望んでたんだよ。 給料は高くなくていいから、しっかり休みもあって、人間関係もよくて……そんな会社に勤めたかった」 「そうすればいいじゃん!」  見習いの提案を直ぐに男は否定した。 「出来たら苦労してねぇよ。 学歴も資格もスキルも何もねぇ俺なんて雇ってもらえねぇんだよ、そういう良い会社は」  ネガティブな発言しかしない男に見習いは、とうとうぶちギレた。 「いい加減にしろよ!!」 「ッ!」 「そうやって面倒な努力から逃げ続けてるだけじゃん! やらなくていい理由を探してるだけだろ!!」 「……お、お前に何が分かるって──」 「分かるよッッ!!」 「ッ!?」 「凄く分かるんだよ!! 俺だって普段から“出来損ない”って言われ続けて、今日も一日中探し回っても上手くいかなくて、このままだと“天使”に成るどころか、下界に堕とされちまうってのに!!」 「・・・・・」  圧倒され、息を飲む男。 「俺はおっさんと“同じ”だからッッ!! おっさんが自分に見えて……っ! だから……だからッッ!!」 「・・・・・・」 「死んでほしくないんだよッッ!!」  渾身の叫び。  男の眼は、それに共鳴するように見開いた。
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