0人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺さぁ~今年で三十歳なのに、まだフリーターなんだよ」
「“フリーター”ってなんだ?」
「お前と一緒さ。天使になれない“見習い”なんだよ。
周りが次々と“見習い”を卒業していって、何なら結婚して、子供までいる奴もいて……。
何者でもない自分が情けなくてなぁ~。
もう明日を考えるだけで憂鬱になるから、何も考えたくなくて、ここにいるんだよ」
「・・・・・・」
見習いは“自分と同じ”だと思った。
背景や言葉の意味までは深く理解出来なくとも、自身の存在に悩む男の姿を自分に重ねてしまう。
「そりゃあ大変だったな。俺も似たようなもんだけどさ」
「お互い“見習い”だもんなぁ~!
どうにかしようと思えば思うほど時間が早く経って、気付けば、もう三十歳だぜ?やってらんねぇよ、チクショー!」
項垂れる男。
見習いは空気を変える為に話題を振った。
「何かやりたいこととか無いのかよ?
例えば俺なら、“さっさと一人前に成りてぇ~!”とかさ」
「……“やりたいこと”?」
「そう!」
「有ったら、三十歳になってねぇよ!チクショー!」
「……ひねくれたおっさんだな」
「悪かったな」
「じゃあ子供の頃の夢は?」
「ガキん頃も同じだったけどよ、やっぱ“安定”を望んでたんだよ。
給料は高くなくていいから、しっかり休みもあって、人間関係もよくて……そんな会社に勤めたかった」
「そうすればいいじゃん!」
見習いの提案を直ぐに男は否定した。
「出来たら苦労してねぇよ。
学歴も資格もスキルも何もねぇ俺なんて雇ってもらえねぇんだよ、そういう良い会社は」
ネガティブな発言しかしない男に見習いは、とうとうぶちギレた。
「いい加減にしろよ!!」
「ッ!」
「そうやって面倒な努力から逃げ続けてるだけじゃん!
やらなくていい理由を探してるだけだろ!!」
「……お、お前に何が分かるって──」
「分かるよッッ!!」
「ッ!?」
「凄く分かるんだよ!!
俺だって普段から“出来損ない”って言われ続けて、今日も一日中探し回っても上手くいかなくて、このままだと“天使”に成るどころか、下界に堕とされちまうってのに!!」
「・・・・・」
圧倒され、息を飲む男。
「俺はおっさんと“同じ”だからッッ!!
おっさんが自分に見えて……っ!
だから……だからッッ!!」
「・・・・・・」
「死んでほしくないんだよッッ!!」
渾身の叫び。
男の眼は、それに共鳴するように見開いた。
最初のコメントを投稿しよう!