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努力と油断
天使の三大原則
天使の仕事は、善人を天へと送ること。
天使の役目は、悪人を天へと入れぬこと。
天使の過ちは、人間の地へ踏み入れぬこと。
私は天使であった。私は生まれつき一本の羽を持って生まれた。他の者は二本、四本、六本と偶数本あるのだが、私は奇数本のそれも一本であった。
私は皆のように空を飛べず、皆のように善人を天へと送れず、皆のように悪人を天へと入れぬように守護することもできなかった。
私は生まれつきの出来損ないであった。
神は私のことを見て、大三原則の二つは守れなくても良いと言ってくださった。ただし、過ちだけは絶対に犯すなと釘を刺すように言われた。私は絶対に犯しはしないとそう誓った。
ある日のこと、何もできぬ私は知識だけでも皆に劣るまいと図書館を毎日のように通っていたので、この日も例外ではなくここへ来ていた。その図書館の地下は多くの禁書が置いてあるため入ることは許されていなかったが、私は例外的に認められていた。
神に私は知識を深めて天の発展に貢献したいのですと直談判したときにお許しをいただいたのだ。その時にも神は私に釘を刺した。
「そなたに許しを下したのは私であるが、それはそなたの知量とその溢れんばかりの天への愛を見いだしたからであって、決してそなたに過ちを許すわけではない。くれぐれも過ちを犯さぬように、私は見ているぞ」
そう、神はおっしゃられた。その時も私は絶対に犯しはしないとそう誓った。
図書館の地下でその日私が発見したものは、古代の迷信と言われていた「鉄のカーテン」だった。
鉄のカーテンというのは皆が悪人を天へと入れぬようにする守護をせずとも、悪人は天へと入れぬようになるという真に信じられないものだった。それを私はこの地下で発見したのだ。
私は神へ伝えに行った。あの迷信「鉄のカーテン」を見つけたのだと。これで皆の一つ役目が終えるのだと、破れる心配もあるが大幅に陣営を減らせるのだとそう伝えた。
神はその私の成果を称え、知性の大天使へと役職を昇格してくださった。その昇格のとき私は大天使だけが授かれる「生命の羽」を授かった。私のあの一本の羽とともにもう一本の羽を手に入れたのだ。
その時私は初めて空を飛んだ。その時私は初めて普通になれた。その時私はやっと皆と同じになれた。私の人一倍の努力は思わぬ形で叶ったのだ。
私は空を飛ぶという慣れぬことをしながら、浮かれて天の地がない方へと飛んで行ってしまった。その瞬間に下の方を見て、あの羽がない時の感覚に陥り「生命の羽」のほうが制御できなくなってしまった。どんどんと落ちてゆく。どんどんと天界が遠のいてゆく。どんどんの人間の地が見えてくる。
そして私は過ちを犯したのだ。
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