第三章 転機

10/15
前へ
/226ページ
次へ
 まずは千暁に神社内を案内された。  敷地は杉の木で囲まれている。真っ直ぐに伸びる杉を目印に神が降臨するからという説もあるが、かつて木材として植えていた名残だともいう。  狛犬がにらみをきかす正面の鳥居をくぐると、左側には手水舎と、湧水が流れる池がある。  右側には車のお祓い所があり、奥には参拝者用の駐車場が用意されている。  敷地内には二本の大きなイチョウがある。イチョウが燃えにくいことから防火の役目があるという。  玉垣と呼ばれる門をくぐると拝殿があり、奥に本殿がある。  拝殿は一つだが本殿は二つあり、それぞれに天照大御神と豊受大御神が祀られている。  建物は伊勢神宮と同じ神明造りだ。  江戸時代にこの近辺の豪農であった人物が、日照りに困って天照大御神に祈りをささげたところ、彼の足元から湧き水が出たという。 恵みに感謝し、彼は天照大御神を祭神として神社を建てたのだという。 「巫女の仕事は清掃、神職の手伝い、お守りやお札の授与などです。巫女舞も覚えていただきます」 「私が?」  紫緒の顔がひきつった。 「結婚式や御祈祷には舞の奉納があります。八月の夏祭りにも舞の奉納があります」  紫緒は言葉を失った。人前で踊るなんて授業でやったダンス以来だ。あのときは恥ずかしくてたまらなかった。 「事務作業は母がやりますが、間に合わないときは頼むことがあるかもしれません」 「はい」  そっちのほうが自分には向いている気がする。
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加