第四章 求婚

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「あのときの。こちらの巫女さんだったんですね」  弘文に言われ、紫緒はぎこちなく笑顔を返した。  彼には恋人の設定は話してあったか記憶をとどる。たしか話していない。 「お知り合いで?」  嘉則が尋ねる。 「前の会社のパーティーでお会いしたことがあります」  紫緒はどきどきと答える。深堀されたい話題ではない。 「いやあ、今日もかわいいなあ。こういう人が大晴の恋人ならなあ」  弘文に言われ、紫緒は目を丸くした。 「余計なお世話だ!」  大晴が文句を言う。 「だって、恋人いないっていうからさ。恋でもすれば作品の幅が広がるじゃん」 「うるせー!」  不機嫌そうな大晴ににらまれ、紫緒はひるんだ。 「ごめんね、海外のオークションで作品が二千万で売れてさ。それで不機嫌なんだ」  弘文の説明に紫緒はまた驚いた。  作品がそんな高額で売れたのに怒るなんて。 「金持ちの道楽とか投資目的とか思ったらしくて。評価されたって喜べばいいのにさあ」 「どんな作品なんですか?」 「VRアートですよ。VR空間に、ばあっと立体的に描くの、すごい迫力ありますよ。目の前で描き上がっていく様は、それ自体が一つのアートです。ネットにもアップしているので、ぜひご覧になってみてください」  立体的に描くというのが想像できなかった。立体的な芸術作品というと彫刻などしか思い浮かばない。VRアートは3DCGとなにが違うのだろうか。
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