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「俺がお前なんかに本当に気があると思ったのか?」
「その子は図々しいから。いっつも物欲しそうに斗真を見てたの、知ってるんだから」
嘲笑いながら詠羅は斗真にしなだれかかる。
そんなつもりはなかったが、斗真を目で追ってしまうことがあるのは自覚していた。
「なんで嘘の告白なんて」
紫緒は憤りを隠せなかった。
「どっきりよ、どっきり! これくらい笑って流せないでどうするのよ、大人なんだから!」
「大人はこんなことしません」
言い返すと、詠羅はむっとした。
「あんたを楽しい気持ちにさせてやったのに。感謝しなさいよ!」
「余計なお世話です」
「恋人いないからって、ひがんじゃって」
「いないわけじゃないです」
とっさにそう言ってしまった。
「へえ」
面白そうに詠羅が口角を歪める。
しまった、と思ったときには遅かった。
「じゃあ連れて来てよ。今週末、会社のレセプションに特別招待してあげるわ」
「いいえ、結構です」
紫緒はすぐに断る。
が、詠羅はそれを許さない。
「私の婚約発表もするの。恋人を連れてきなさい。命令よ」
詠羅はにたりと笑い、斗真と腕を組んでとりまきとともに屋上から出て行く。
ぱたん、とドアが閉まり、紫緒はその場に座り込んだ。
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