第一章 神頼み

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 天は自ら助くる者を助く。  祖母がよく言っていた言葉が頭をよぎる。  努力さえすれば神様が助けてくれるのだろうか。  が、今回に関しては自助努力でどうにかなるとは思えない。そもそもこれは人に日頃の努力を促すための言葉だろうから。  紫緒はバッグに入れていたお守りの水晶を取り出した。水晶は勾玉の形をしていた。その中には虹がある。とはいってもアーチの形をしていはいない。光の屈折で虹が閉じ込められているように見えるのだ。  おばあちゃん、私を見守っていてね。  水晶を手に包み、祈る。  困ったときはいつもこのお守りに祈って来た。祈ってどうにかなることではないが、それだけで少しは気持ちが落ち着いた。  これをくれた人なら、今回のことはどうアドバイスしてくれるだろう。  何度目かわからないため息をついたときだった。  きゃっきゃと弾むような声が聞こえて来た。  外国人らしき三人の一家が手水舎にいた。  この神社は国宝級とも言われているので、外国からの観光客もしばしば訪れる。  父親と母親が水盤の中に手をつっこんだので、紫緒は目を丸くした。  手を洗った彼らはぶらぶらと手を振って水けを飛ばしている。  子供はひしゃくで水をすくってはぶん投げるように撒いて遊んだ。  唖然として見ていると、彼らはそのままこちらの拝殿へ向かった。  きっと作法を知らないんだな、とは思ったが、あまりのことに唖然としてしまった。  自分だって正しい作法を熟知しているわけではないが、彼らの行動はあまりに大胆に思えた。
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