第四章 求婚

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 手が空いたときにはお守りの在庫確認、結婚式や七五三のパンフレットの補充を行った。  お札を紙袋に詰めるのも夏祭りの準備をするのも仕事の内だ。 「巫女って力仕事もあるし、意外に体力勝負なのよね」  紗苗はそう愚痴をこぼす。  七五三のときなどは早朝からの出勤になるというし、年末年始は夜勤もあるという。  掃除をするにもなにをするにも基本的に作業は巫女装束のまま。裏方作業や汚れそうな作業のときは作務衣を着ることもある。  この神社はお手洗いは参拝客とは別の場所に用意されていた。  隣には更衣室があり、そこで袴を脱いでトイレに行くことができる。  とはいえ、今はスカート型の行燈袴なのであまり更衣室は使われていない。かつては馬乗り袴というズボン型だったので更衣室は必須だった。  千早という神楽を舞うときの衣装では、そのままトイレに入ってはいけないという。神は穢れを嫌うからだ。  穢れは単純に汚いという話ではない。物質に限らず、精神的なものも含まれる。  穢れは「気枯れ」が転じた言葉とも言われており、その状態になると生命力が衰えるとされている。  だから禊などでそれを祓い清め、回復する必要がある。  神様って潔癖だな、と紫緒は思った。  宮司に来客があるというので紫緒はお茶出しに向かった。  お茶をお盆に載せて事務所兼応接室に入ると、嘉則の向かいにはVRアーティストの宇槻大晴とマネージャーの浮田弘文がいた。
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