第四章 求婚

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「美津子さん、どちらへ」  声がして振り返ると、千暁が帰って来たところだった。 「巫女舞保存会でお食事会よ」 「気を付けて行ってらっしゃいませ」  千暁が頭を下げ、慌てて紫緒もそれにならった。美津子はバイクを押して門に向かって行った。 「紫緒さん、仕事は大丈夫そうですか?」 「正直に言うと、自信がありません」 「まだ二日ですから、これからですよ」  千暁は穏やかな微笑を見せた。  紫緒の頭に紗苗の話がよぎる。 「……私が住まわせてもらってる家なんですけど」 「なにか問題がありましたか?」 「権宮司が結婚してから住む予定だったと聞きまして」 「その話ですか。相手もいないのでお気になさらず」  おそるおそる千暁を見上げると、相変わらずの穏やかな笑みがそこにはあった。 「こちらでは千暁と呼んでくださいね」 「でも……」 「苗字で呼ぶと家族全員が返事をすることになりますよ?」 「そ、そうですね」  紫緒は困惑しながら答える。 「特に私の祖母ですが、必ず名前で呼んでくださいね。おばあさん扱いされると怒るので」  だからか、と紫緒は納得した。  彼はいつも美津子さんと呼びかけていた。
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