第四章 求婚

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「引き留めてしまって申し訳ありません。また明日」  千暁が言い、紫緒は頭を下げた。  玄関に消える千暁のうしろ姿もまた美しかった。  夜、お風呂を出たあとのことだった。  髪をタオルで拭きながら歩いていると、リビングのカーテンを閉め忘れていたことに気が付いて、掃き出し窓に近付いた。  窓からは暗い夜空が見えた。空には月があり、清冽な光に千暁を連想してしまった。  その光を浴びたくなって窓を開けると、人影が見えた。  母屋と共有している庭に紺色の袴姿の千暁がいた。木刀をふるっている。  動きが美しかった。普通の剣道ではない動きのように思えた。  流れる水のようになめらかで、舞を舞うようにも見える。  視線に気付いたのか、千暁が手を止めて紫緒を見た。  紫緒が会釈をすると、千暁は歩いてこちらに向かって来た。  紫緒は慌てた。風呂上りですっぴんだし、ノーブラでTシャツに短パンというラフなかっこうだったから。  髪に巻いていたタオルを首にかけ、胸を隠すようにした。 「こんばんは」  千暁が穏やかな笑みで言う。その顔には汗が浮かんでいた。 「こんばんは。なにをなさってたんですか?」 「我が家に伝わる古武術の鍛錬です」 「こぶじゅつ?」 「明治より前に生まれた武術です。刀を使うものも体術もあります。ほかの武術と違ってルールがないんですよ」 「そうなんですか」  そうとしか答えようがなかった。武術には興味がなくて、なにも知らない。
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