第一章 神頼み

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「私も転職は考えてるんだけど」  求人は見ているのだが、ピンとくるものがなくてこの仕事を続けていた。  辞める勇気も、新しいところに飛び込む勇気も足りない。  就職して三年、ようやく一人前になったところだと思う。  ここで辞めてしまうと「たった三年で」と言われるのではないかと不安があった。  今まで通り、平凡に人生を過ごしていくのだろうか。  そんな不安ともつかないものが胸をよぎる。  人生をがらっと変えたいと思うときもある。  だが、なにをどうしたらそうなるのか、今の紫緒には想像もできない。  そろそろ結婚についても考えなくてはならないだろうか。  結婚したら人生が変わるだろうか。  誰ともつきあったことなどないから、交際もその先のこともぼんやりしていて思いつかない。  もし結婚するなら。  斗真の顔が浮かび、慌てて首を振った。  何度も助けられているから、彼がとても頼もしかった。  ただそれだけだから。  紫緒は心の中で言い訳をした。  夕方、仕事を終えたとき、斗真が声をかけてきた。 「陸里さん、このあと時間ある?」 「なんでしょう」  急ぎの仕事だろうか。そう思う彼女の耳に、斗真はそっと囁く。 「一緒に食事に行かない?」  紫緒は思わず身を引いて斗真の顔を見た。彼はにこっと笑う。 「い、行きます」  どもりながら答える紫緒の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
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