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灰皿へ先端を押し付けていると、男は煙をふかしながらケラケラと笑い出した。
「芙美ちゃんって若いのに肝が据わってるね」
「よく言われます」
「10個下の子と話してるとは思えないよ。見た目も大人っぽいけど、中身も言動も、精神年齢がかなり高いんだね」
「それもよく言われます。大人っぽいというか、いろいろと冷めてるんですよね。昔から」
1本目を吸い終わり2本目へと手を伸ばしたところ、口元に半分の長さの煙草が当てられた。
「ごめん、もうギブ」
「じゃあ貰っちゃいますね」
部屋に充満する香りに酔ったように気分が高揚していく。
手持ち無沙汰になったからか、男は私の胸元まで伸びる髪をてっぺんからゆっくり撫で始めた。
「髪、綺麗だよね。もしかして染めたことない?」
「はい」
「芙美ちゃんなら何色でも似合いそうなのに」
「昔、この黒を褒められたことがあるんです。だから…多分、一生、この色のままです」
こんなことを口走ってしまうのはきっと、この懐かしい匂いのせい。
「……ねぇ芙美ちゃんってさ、」
視界が薄っすら滲んで見えるのは、きっと、煙が目にしみたせい。
「忘れられない男でもいるの?」
この煙草と出会ったのは7年も前のこと。もう7年、されど7年。あの人が私の中から出て行ってくれないのか、私が追い出したくないだけなのか。
「……さあ、どうでしょう」
――あの人と出会ったのは7年前。16歳の夏だった。
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