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私の生まれ育ったこの小さな町にはコンビニが1つしかない。昨日そこに現れたのは、この田舎町には似つかわしくない都会的なオーラを纏った男の人。
「どんな人なん?」
「んー……洗練された大人の男、って感じ」
顔だけじゃなくて、声もややハスキー気味でかっこよかった。長身なスタイルのせいか圧倒的な存在感があった。
どうしてかその人のことが頭から離れない。あまりにかっこよすぎたからなのか、このあたりでは見かけることのない人種だったからなのか。
だけどこれは恋なんかじゃない。
いくら私が恋愛に疎いからって、1度接客しただけの見ず知らずの人間を好きになるなんてことは絶対にありえん。
「冴英、私そろそろ帰るよ」
私から男の話が出たことがよほど嬉しかったのか、それからしばらく冴英からの質問攻めにあっていた。
「また明日、よーく聞かせてな?」
「はいはい、また明日な」
サッカー部の彼氏を待つ冴英を残して、1人帰路に着く。
漁業が盛んなこの町には大きな海岸がある。浜辺の端と端同士は肉眼で確認できないほど広く、夏休み中のこの時期は町民だけでなく他の町や市からの観光客で賑わっている。
私の家の真裏にこの海岸があって、浜辺の最端へは10秒ほどで行けてしまう。
「んー……」
波がくるギリギリのところに座り込んで、ぐーっと両腕を上へと伸ばした。
海岸の中央部分は人が多くいるけれど、端っこまで歩いてくる人はほとんどいない。人気のないこの場所は私の隠れスポット。
陽の光でキラキラと輝く波の動きを眺めていると、それだけで心が浄化される気がする。
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