初恋は紫煙と共に【完】

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𓂃𓈒𓏸 「煙草、吸っていいですか?」   「うん。いいよ」 床に落ちていたバスローブをざっくりと羽織り、ベッドの端に腰掛けたままサイドテーブルに置かれた黒い箱へと手を伸ばす。 ゴールドのオイルライターで火を灯し、口に咥えた煙草へとそっと近付けた。 「俺にも1本ちょーだい」     背後から抱きしめられるように腕を回され、左手に持っていた箱から煙草が1本抜かれる。身体を後ろへ捻って点けたままのライターを口元に持っていってやれば、目の前の男は分かりやすく顔を歪めた。 「うーわ、きっつ。芙美(ふみ)ちゃん、女の子なのにめちゃくちゃ強いの吸ってるんだね」 「橋野さんは普段煙草吸わないです?」 「うん、実は。付き合いでたまーに吸うくらいかな」 「やっぱり。吸う人にはこの箱見ただけで驚かれるんですよ。こんな強いの吸うの?って」 深く深く煙を吸い込んで、ゆっくりゆっくり吐き出していく。じわじわと全身の細胞に毒が回っていくようなこの感覚が堪らなく好きだ。 「格好つけたのが裏目に出ちゃったな」 「無理そうなら私が貰いますよ」 「ううん、頑張って吸ってみるよ。あのさ、芙美ちゃんが頑なにキスを拒むのはこの煙草のせい?」 「……さあ、どうでしょう」 「別に俺は気にしないのに」 お腹に回された手に力が入り、耳元に生温かさを感じた。何度かリップ音を鳴らした唇が、ゆっくりと正面を覗き込むように近付いてくる。 「ごめんなさい」 相手の唇へ人差し指を押しつけて、にっこり微笑む。 私の目が笑っていないのに気付いたのか、目の前の男は「ごめんごめん」と眉を下げながら顔を離した。
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