9話 夜勤明けの楽しみ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 ふと目が覚めた私は手探りでスマホを探して時間を確認する。午後一時過ぎ。うん。我ながら丁度良い時間。  まだ重い体を起こして洗面台に行って顔を洗う。ちなみに夜勤の時はメイクをしていないことが増えた。どうせ面会の方はいないし、長時間の勤務で崩れても直せないからだ。新人の頃は気を張っていたからメイクもしていたけど、先輩からのアドバイスを受けて段々薄目のメイクになり、今ではノーメイクの日もあるくらいだ。  ちょっと目が冴えてきた私は、帰りに買った惣菜をレンジで温めて冷蔵庫からビールを取り出した。そしてチン、とレンジの音が鳴っておいしそうな匂いが部屋に漂った。夜勤明けの恒例行事。昼から一人で部屋飲みの時間だ。ビール缶のプルタブを引くと、プシュッという天国の鐘の音が聞こえてくる。そしてそのまま口を付けてグイッと飲み込むと、少しの苦みを含んだ炭酸が喉を通っていく。  っかーっ!  瞼をぎゅっと閉じてビール缶を握りしめる。今の私の至福の時間。  今日の惣菜は玉子ときくらげの中華炒め、それから唐揚げ。そしてカロリーの罪悪感を薄めるためのサラダボールだ。夜勤明けは何故か食欲が増す。だから大体がっつり系の惣菜を選びがちだけど、頑張ったご褒美という名目で気にせずに食べることにしている。  立て掛けたタブレットで推しのライブ映像を見ながら、箸の向くまま惣菜を口に運んでいく。お酒はビールから缶チューハイに代わっても、一人晩餐会はダラダラと続いていく。  我ながら寂しい休日だと思うものの、今はちょっと恋愛をする気になれない自分は「まあ、いいか」と思って寂しさと諦めの気持ちをお酒と一緒に飲み込んでいく。  換気のために窓を開けると、空はオレンジ色に染まってきていた。  さて、明日の休みはどうしようかな。  酔って火照った頬に涼し気な風が心地よい。目を閉じて風を楽しみ、私はこの長閑な時間を楽しんだ。 第9話  完
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加