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竜黒一家は、元々は超武闘派極悪非道変態な暴走族グループ竜黒會が始まりとなっている。
その竜黒會OB達が後輩やチンピラを集め最初に始めたのは振り込め詐偽であった。そこで莫大な資金を作り、関東を収めている広域暴力団筒木組に取り入り、盃を貰って組、組織になった。今は新宿の一部をシマとして与えられている。
振り込め詐欺が警察の取り締まりが厳しくなり、今はホストやメンズ地下アイドルを運営したりしている。
その手口は、顔の良い男子大学生をキャバ嬢などを使い騙くらかし借金塗れにさせた後ホストやアイドルに流して、今度はそいつらが客の若い女を借金塗れにして顔の良い子はキャバクラ、それ以外は風俗で働かせたり、立ちんぼさせたりする。性は本当に簡単に金になった。
未成年の女の子なら社会的地位のある人間や芸能人に近付かせその後で、あれは未成年だったんだぞ? と脅せば大金が手に入るし、中には上には上がいて自分から大金を払うからと年端もいかない少女を紹介して欲しいと何度も買ってくれるバカもいた。
それらの金を、彼らはすぐ親組織に上納しなかった。勿論遊ぶ金に使ったわけじゃ無い。投資に当てたのだ。株やFXである。
ああいう物はギャンブルでは無い。知識、経験、そして度胸や独特の冷酷さがいるのだ。
黒木達の中に田町トオルという男がいる。トオルは組員ではない。黒木の幼馴染であったが、悪童だった黒木とは別のタイプのアウトサイダーだった。
トオルはギフテッドであった。生まれながらに人並み外れたIQを持っていた。
普段から自分の事を他人よりは頭が大分良いと自覚していたトオルは、18の時面白半分にある児童支援機関で測って貰ったらIQ250を超えていた。この時に、ギフテッドであると告げられた。トオルは損得勘定から考えそれを公表させなかった。
ちなみに東大生の平均IQは120、日本最高は現時点ではIQ188、世界最高はIQ228である。トオルは生まれながらの超天才であった。
ギフテッドとは英語の「gifted」から由来する。同世代よりも先天的に高い能力を持っている子供達を指す事が多い。
知的能力、特定の学問、芸術性、創造性、言語能力、リーダーシップなど、あやゆる分野で優れた才能を発揮できる可能性を生まれながらに持つ。
なぜ『出来る』と言い切るのではなく『可能性』なのか? それはあまりに能力が高過ぎて、周りとの協調を保てなくなる危惧があるからだ。大人なら損得勘定や自分の身の程を客観的に理解できるので、ある程度人間関係のバランスを取る事も出来るが、子供の場合まず感情が先立つ為に、お互いに上手く関係を築けない事が多い。ギフテッドとは言え精神年齢はそのままの子供である。民主主義という名の素晴しき多数決も、バカが多ければ最悪の結果を生む。その場合、どんなに優れた能力があろうが、少数派となり迫害を受ける。
残念ながらトオルは少数派であった。
小学校に通い出すと、頭の良さと会話の噛み合わなさから直ぐイジメグループの標的になった。その時に、一緒にターゲットにされたのは、当時はチビで誰とも馴染まず生意気だった黒木だった。その時に、黒木はイジメグループのリーダーを、リコーダーでタコ殴りにしたが、そいつが小6の兄を連れて来た。小1と小6では当然勝てるはずも無いが、タイマンでボコボコにしたあと数名で囲んで黒木をリンチまでした。
それは子供が行うには凄惨な物であった。黒木はその為に1ヶ月ほど入院した。
警察沙汰にはしなかった。黒木は決して犯人を言わなかったのだ。知らない高校生だと言った。勿論、復讐の為だ。
やっと全快し、いきり立ってランドセルに家の包丁を入れ学校に行くが、皆の目が違った。
派手にやられた負け犬の筈なのに、自分を見るその目は怯えていた。
自分をイジメてたグループのリーダーが教室には居なかったが、代わりにそいつの机の上に花瓶に入った花が飾られていた。
自分に誰も寄って来なかった。まるで自分はそこに居ないようだった。
やはりそれは朝感じた物と同じで、イジメのそれではなく、自分への恐怖からに感じた。
クラスの中で一番弱そうな奴を捕まえて聞いた。イジメグループのリーダーは多分そうだと思っていたが、やはり死んだらしい。そいつはそれ以上は何も言わず、ただ許してください! と必死に懇願するだけで、黒木は一体自分の居ない間に何があったんだ!? と面食らった。
その理由が、帰り道で分かる。
自分を待ってる人間が居た。トオルだった。
トオルはもうこの時には学校に来ていなかったし、黒木も顔を知っている程度の認識だった。自分とは違い、何も反撃出来ないつまらない弱虫だとこの時までは思っていた。
「学校どうだった?」
トオルは微笑んで軽やかに聞いた。
「え?」急にトオルに話し掛けられて驚いた。今日初めて自分に同等の目線で声を掛けて来た。
「本間君、居なかったでしょ?」
「ああ、死んだみたいな? 花があった」
「ニュース見てないの? 家燃えちゃってお兄ちゃんと死んじゃったんだって。お兄ちゃんのお友達も皆んな事故にあったり死んだってさ」
黒木はその言葉にまさかとは思ったが——。「お前がやったのか?」と聞いてみた。
「うん。完全犯罪だよ。僕は子供だし学校も行ってない。時間も沢山あるし、誰も僕の事を見てない。絶対に僕がやった何て誰も思わない。もし万が一捕まっても、少年法で数年で出て来れる。顔や名前は出でも、名前は変えれるし顔も大人になれば変わる」
「……。」擬態だ。コイツは弱い自分を装ってるが俺と同種だ。大人の言葉で言えば、そんな風な事を黒木は思った「なあ? お前んち行って良い?」
「いいよ」
日は暮れ、トオルの背に夕陽が射していた。それはまるで天使の後光の様に黒木には見えた。
これが2人が初めてお互いを同種として自覚した時だった。
——トオルの家庭環境は最悪だった。
金銭的には裕福ではあったが、母は不倫をしていて、父は自分の趣味にのめり込み、お互いにマンションを借り一緒に暮らしてさえいなかった。
1人息子の面倒は、結婚時に建てた一軒家で家政婦がみていた。
2人はどんなに息子に才能があろうが興味がなかった。
学生結婚だった。母、友恵は地方の資産家の長女であったが、父の会社自体は長男である弟が継ぐ事は決まっていた。自分も自由が欲しかったから、継ぐなんて気は一切無かった。だが、やはりそれなりに金は欲しかった。
そんな時に、たまたま誘われて行ったコンパで田町充と出会った。
充は男達の中で一番羽振りが良かった。だが聞くと3流大学どころか大学にさえ行っていなかった。
その金は投資で儲けた物だと良い、その日の支払いも全部充がした。
充は見た目はブサイクという訳では無いものの着て居る物に比べパッとはせず、特に面白い事も言わないつまらない男だった。話している内に友恵はそれは、この男に表情が無い事からだと気付いた。いや、一応は皆と一緒に笑ったりはするのだが、目が笑って居ない。皆に合わせて笑おうとして、頑張って笑っているのが分かった。だが友恵はそんな事なんてどうでも良かった。充の金を作る能力に強く惹かれた。
友恵は父が金に物を言わせて口説き落とした地方モデルだった母のお陰で、人並みよりは大分上な容姿をしていたが、充が惹かれたのは友恵の父の資産だった。厳密には金目的でない。自分がより大きな投資ゲームを楽しむ資金源が欲しかったのだ。
友恵の父親は最初は投資で暮らすという高卒の充を認めなかった。
まがいなりにも資産家である自分の家に、何処の馬の骨とも分からない男が入る事に気分が悪かった。
そこで父親は2人の中を割く為に100万円を充に渡した。それはテストであった。
これを、一定の期間やるから、その間に増やせれば友恵はくれてやる。が、擦ったらお前の借金として返せというのだ。真の狙いは借金を背負わせて、それをチャラにする代わりに娘は諦めさせるつもりだった。自分にとってははした金だが、高卒のガキにとっては天文学的な大金だと思ったのだ。
だが、2人ともそんな父の算段などお見通しであった。
数ヶ月後に家に突然やって来た充は、客間に通されてそこでジャラルミンに革の貼られたトランクを1つ広げた。そこには帯のついた札束が詰まっていた。父親は信じられずトランクをその場でひっくり返した。
「1億あります。キリが良いのでこの辺でやめました。1千万くらいなら、かき集める事も出来ましょうが、1億につまらぬカラクリは使えません。お受け取りください。結納金です」充は平然と言った。
100万を短期で1億にしたのは勿論嘘であった。
これは、この時に充が持っていた全資産を金に変えた物だった(まあそれでも1億の資産を持っていたのは凄い事だが)。
確かに嘘ではあったが、そんな事はもう父親とってはどうでも良い事だったろう。二十歳そこらの高卒のガキが家も継げない娘の為に、1億を持って来た事に度肝を抜かれた。そして、充に対する評価も180度逆転した。1人の男として認めた瞬間だった。だから、そのまま1億円を持参金だと充に渡した。
そこまで含めて、全部充の計画であった。
そこまでとは——、コンパも含めてそこまでだ。
充が唯一楽しいのは投資ゲームに勝つ事だけだった。女になど元々そこまで興味はない。
最初の出会いから、既に充は計画していたのだ。
流石に有名大企業の社長の娘ともなると難しいだろうが、この程度の企業ならイケるだろうと高を括っての事だった。その算段は見事に的中した。
それから2人は無事結婚した。
予想通り友恵の父親は、充に数千万単位の金を渡し投資に使わせて、その上前をはねた。それでも充の元にも数千万単位の金が残った。充は高額な投資ゲームさえ出来れば良いので金は生きるのに少し毛が生えた程度しか使わず、友恵は望んだ裕福な生活を結婚前以上に送れた。
高い知能を活かした田町トオルの金を生む才能は、父親譲りの物であるだろう。
黒木は小学校の時良くトオルの家に行っていた。
あの時、同種だとは思ったが、友達とはまだこの時は思っていなかった。心までは許していなかった。
黒木は1LDKの、古い6階建てなのにエレベーターも無い、公団に住んでいたから、広い一軒家に住んでいるトオルの家に行くのは物珍しかった。
オモチャや最新のゲームもいくらでもあり、好きなだけやらせて貰えた。オヤツも好きなだけ食べさせて貰えた。
そして何より最高だったのは親が居ない事だった。
黒木の家は父親が警備員で、母親は近所のスーパーでパートをしていたが、父親にギャンブル癖もあり決して裕福では無かった。
さらに酒を飲むと暴れて、黒木と母親に殴る蹴るした。
トオルの家は無料でいくらでも食べれて遊べる最高の場所だった。
だが、じきにトオルも自分と似た様な孤独な境遇なのを知ると、段々と利用していただけの存在から数少ない本当に共感出来るただ1人の友人になっていった。
共感を得られたのはそれだけではない。トオルにも自分と同じ楽しみがあった。
最初にやったのは、何かの気まぐれで母親が一人っ子のトオルが寂しいだろうと飼ってくれたトイプードルのペロの処刑だった。エアガンで打ったり傘で殴ったり散々いたぶり、両足を縛って睾丸をハサミで切って取り出してみたりもした。
当然、死んでしまい処理に困って風呂場で全裸になり2人でバラバラにした。トイレに流そうとしたのだが、詰まるのを危惧された。別に血も抜けてるしビニール袋に入れて、黒木が帰りにゴミ捨て場に捨てれば良いんじゃない? と提案されて、それでいいやと今までの努力やバレたらどうしようという恐れも馬鹿らしくなり笑った。
ちなみに、後にどうなったか黒木はトオルに聞いたが、トオルの母はペロが居なくなった事さえ気が付かなかったそうだ。母親は、まったく自分以外に興味は無いんだとトオルはその時実感した。
それから、2人で血を洗い流す為に風呂に入った。古い外国映画の風呂みたいにボディーソープを湯船に入れて泡だらけにした。
2人で戯れているウチにネットで見たアダルト動画を真似して、トオルに黒木は自分のペニスをしゃぶらせてみた。軽い気持ちでふざけてだったのに、自分のペニスに夢中で吸い付くトオルは、なんとなくさっき殺したペロの生きていた時の餌を貪っている姿を思い出させた。小学生の黒木は長い間しゃぶらせていたが、その時は射精は出来なかった。今度はトオルの番なんだろうと、思ったが黒木は自分がしゃぶるのは気が進まず出来ないと謝ったがトオルは怒らなかった。
その後もずっと2人は友達だったが、トオルが小中と登校した事は1度も無かった。中2の時にトオルから自分はどうやら性同一性障害らしいとカミングアウトされたが、ゲームをしていた黒木の返事は「へえ、そうなんだ」だけだった。
それは別にトオルに興味が無い訳では無く、自分は頭が悪いので性同一性障害なんて難しい事など分からないけど、俺にとってお前はお前でしかない、という意思の現れである事を、黒木のその後も変わらぬ態度からトオルは理解した。
黒木はそういう知識は特に深くは無かったが、なんとなく本能的にコイツは男が好きなんだろうという事は分かっていたので、今更言うよ分かってるよ、という感じだったのだろう。
彼らには実はもう1人共通の大事な友達がいた。
それは家政婦の花村千聖だった。2人からは千聖さんと呼ばれ、実はペロを殺した時も、風呂場でフェラチオをした時も千聖さんは見ていた。
千聖さんはあの時トオルが黒木にしたような事を、ずっとトオルにもしていた。社会的には性的虐待だが、2人にとっては遊びでしか無かった。
その時に、千聖さんはボッキしないトオルをまだ子供だからなのか? 勃起不全か同性愛者なのか? と悩んだが、風呂場の事件の時にゲイである事を確信した。泡の中に手を突っ込みトオルの股間を握ってボッキしているのを確認したからだ。そして、そのまましごき千聖さんの手の中で実はトオルは1度果てていた。それが初めての精通だった。
ペロを殺すように仕向けたのも実は千聖さんであり、小5の時に初めて3人でセックスをしたりもした。千聖さんと黒木がやって、今度は黒木がトオルをやった。別に黒木はまったく同性愛の気は無かったが、あの時の罪滅ぼしの為にと友情としてやった。全部が千聖さんの教えだった。千聖さんは心の壁を持たない女だった。
こんな事があった。千聖さんは絵具セットを持って来て2人を呼んだ。そして教えてくれた。
「多様性というのは、この12色の絵具を全部出して——」と無邪気に笑い全部床に絞り出して「こうやって混ぜる事よ!」と掌で床の絵の具の山を混ぜた「ほら見て? 真っ黒。素敵!」そう嬉しそうに言った。
この時の事を、なぜかトオルはずっと覚えていた。
黒木とトオルは心の内に生まれながらに化物を宿していたが、その化物を育てたのは千聖さんだった。
だから、2人にとって千聖さんは聖母マリアのような存在だった。慕っていたし、大好きだった。
——だが、2人が小学校を卒業する年に千聖さんは突然死んだ。
2人は葬儀にも行っていないし、どうやって死んだのかも知らされなかった。なんとなく2人は千聖さんに見捨てられた気がした。寂しかった。
新しい家政婦を雇うのを拒否し、暫くはトオルは一軒家で1人暮らしをしていた。
15になり黒木が中学を卒業すると、一緒に家を出て行動を共にする様になった。
その直後から、田町トオルは女装を始め、自らをチヒロと名乗るようになった。黒木はそれに対し何も言わなかった。
なので現在チヒロは見た目だけなら15、6の少女の様だが、実年齢は黒木と変わらない。28歳である。
黒木がどうして暴走族を作ったのか? それは良くあるようなアウトローの社会への単純な反発などでは勿論無い。
自分とチヒロが拷問や虐待をしても捕まらない環境が欲しかったからだ。
一般人をやれば警察に通報されるが、チンピラは仲間内で終わる。メンツがあるからだ。悪党の敵である警察に泣き付けば、悪党組織は続けられない。負けるにしても悪党らしい負け方があるのだ。
黒木の残虐性は暴走族時代から有名で、喧嘩に日本刀なんてのは当たり前で拉致した相手をチェンソーやガスバーナー、ドリル、酸、思いつく道具をなんでも使い執拗な拷問を実験の様に行なった。だから、黒木には捕まるな! がヤンキー連中の合言葉みたいになっていた。
黒木はそれをエスカレート拡大させて行き、最終的に殺してもバレる事なく処理できるヤクザの組まで作る事になった。それが竜黒一家である。
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