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聖なるはかりごと(4)
メルツェデス「……あらら……」
ユーディット「…………」
メルツェデス「……あーなると、もう頼んでも無理ね……なら、ユーディット、頼めるかしら? ポスターのモデル……」
ユーディット「はい。わかりました」
「……よし。では、これを着てちょうだい。このサイズは、ユーディットにはゆったりしてると思う。着たら……そうね……会議室の近くの通路に立ってもらって……私が撮影するから」
メルツェデスは紙袋からカメラを出してから、複雑な表情を浮かべて相手を見つめた。
「…………」
「……どうぞ、おっしゃってください」
制服を手にしたユーディットにメルツェデスは述べた。
「……あの……ユーディット、レナータとは仲違いするように……とでも、ヴェルクマイスター総司令官から命じられているのかしら?」
ユーディット「……」
メルツェデス「私には……レナータがあなたに突っかかっている、というよりは……あなたが……彼女の神経を逆撫でているように見えてしまう、のだけれど……」
ユーディット「……これはわたしがやりたくてやっています」
メルツェデス「ど、どうして!? そんなことを? ……レナータの態度がそんなに気に障るの?」
ユーディット「いいえ。……彼女が大好きです。包み込み、守ってあげたいと感じています。……元来のレナちゃんは繊細で優しいのです。ジークくんはそんな彼女が愛しい。悪魔と戦闘するだけではなく、天使同士で恋愛しても、それはそれでいいのです。もしも……わたしと彼女が仲良しであって、わたしが悪魔との戦闘で失われた際は、彼女は落ち込み……立ち直れないでしょう。ゆえにわたしとは敵対関係であった方がよい。その方がわたしが役目を終えて消失してから、彼女は気持ちをすぐに切り替えられる。……嫌な奴が消えて、せいせいしたと彼女は考えられる。そうなってほしい。彼と彼女でこれからの人間の行く末を見守ってほしいから。……これはすべて、計画的な関係の構築です」
メルツェデス「…………。ユーディット、あなた、何を言って……るの……」
「……もちろん、メルツェデスさんのこともわかっています。損な役回りを務めておられるのは、気の毒に感じます……」
制服に着替えたユーディットはそっとメルツェデスの手に触れた。
すると、メルツェデスは瞬時に少し前の記憶を喪失してしまった。
「…………。!??? ……はっ?? …………ん?? あれ、んん?? ……???」
ユーディット「……着ましたが……いかがでしょうか?」
メルツェデス「! あ、ああ、そっ、そぅ、そう……せ、せい、ふくを……き、着てくれたのね、ユーディット……ん、んん、いい、いいわ、ふわ、ふわ?? ……それじゃ、こっちへ来て。何もない壁を背景にして、写真を……人間の目で見える、写真を……とるわよ……い、いいのよね、これで……」
ユーディット「はい」
「……んんーーー? おかしいわねぇ……なんかこう……頭が、はっきりしないっていうか……」
メルツェデスはブツブツ言いながら、部屋から出た。
ユーディットはそれに続いた。
カメラを構えたメルツェデスはユーディットへ言った。
「よーし、この辺でいいわ。そう、そこに立って。上半身を写すからね。首だけこっち向いて。うん、そう。……何枚か、撮るから。……そ、そーう、そーう……笑えば〜〜ホント〜可愛いわよね、ユーディットって」
「…………」
黙るユーディットの前で通路にはメルツェデスの声が響いた。
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