聖なるはかりごと(1)

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聖なるはかりごと(1)

 背中に翼があるジークは口を開いた。 「ねぇ……メルツェデスさん、なんの用なのかな? ……ここで待ってて……なんてさ。初めて……この部屋に入ったよ」  同じく背中に翼を持つレナータが答えた。 「さぁ、ね〜〜〜……まーー、どうせ……どうでもいいことなんじゃないの」 ジーク「どうでもいいこと??」 レナータ「そーそー。いっつもやってる訓練なんかの類なんじゃない? それなら……メルツェデスは説明すんの下手なんだからさー、エラさんあたりにでも、話してもらいたいもんだわ」 ジーク「……だよね。本部の会議室に集合してねって、ただそれだけ……言ってきて……会議室って、ここのことでしょ?」 レナータ「……はーあー、このごろ退屈よね〜。悪魔が人間に魔法の使い方を教えてからは、人間自体が災いを()き起こしてさ……悪魔そのものの地上での活動は減る一方で……あたしたちの介入できるような凶悪な事件はなかなか起きなくて……あたしたちは同じことばっかりを毎日毎日、繰り返してる。……そもそも、訓練なんてさーーあんまり意味がないわよ。そうでしょ? 邪悪で危険な悪魔を現場で叩き潰すのが、あたしらにとっては何よりも大切なことなんじゃないの?」 ジーク「……うん。たしかに。……同じ訓練の繰り返しには……ぼくも飽きてきたな……」 レナータ「訓練が大事なのは認める。けど、もう十分にやってる。……地上で暴れている悪魔を実戦でやっつけるのが、あたしたちの本来の役目」 「……フフフフフ……笑わせてくれること……」  二人よりもさらに多くの翼を有するユーディットは述べた。 レナータ「ん!?? なななな、なによ、あんたぁ? 珍しく……黙ってたと思ったら……」 ユーディット「……わかるわ。わかるわ。わたしにも、実戦にこだわりたい新入りちゃんの気持ちはよぉくわかる。あなたは悪魔との戦闘時、わたしやジークくんに助けてもらう、困ったちゃんですものねぇ。……あなただけでは、狡猾(こうかつ)な悪魔は倒せない。しかし、愚かな新入りちゃんはひとりで悪魔を倒そうと、独断専行ばかり行う。言い換えるならば、何をしてくるかわからない相手に突っ込んでゆく思慮の足りないあなたをわたしとジークくんが救い出し、悪魔の浄化へと()ぎ着けてやっている。あの無能上司の立てた作戦成功のためにねぇ。……ああ、なんて立派な破壊の天使なのかしら〜。……少しは、ありがたく思ったらどうなの? ……ええ? おい、こらぁ?」 「なッ、なんじゃとおぉぉぉぉっ、おおおお、おんのれぇぇぇぇぇっ!!!」  声を張り上げたレナータはイスから立ち上がった。 ユーディット「フフフフフフフフ……あの強敵だった悪魔の首領(しゅりょう)もわたしが必殺技で倒したため、新入りちゃんは間一髪、無事だったんじゃなくて? ……あら、忘れちゃったのかなぁ?」 レナータ「そそそそそ、そりゃぁぁわかってるぅ、わかってるけんども……新入りちゃんってぇ呼ぶなぁぁぁっ、あ、あ、あたしには、レナータっていう、ちゃんとした名前が、ああああっあるんだからァァァァっ!!!」 ユーディット「ならば、レナちゃんとでも、呼んでやろうかしらね? フフフフフフフ……」 「あああん? ちゃんって、つけんなぁっ、きっさまぁぁぁっ……こ、このぉぉぉっ……」 「や、やめなよ……っ」  ジークはユーディットに殴りかかろうとするレナータをおさえている。 ユーディット「フフフフフフフ……これなら心配いらないようね。あ……あの女、来たわよ」 レナータ「ふぇ!? なにが、誰がよ!?」  そこにガチャン、と音がして、ドアが開いた。
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