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夕食後、草刈りはのぞみを来客用の豪華な部屋に案内した。
「泊まっていくといいよ」
草刈りが言った。
「私、帰らなきゃ。明日から大学の講義が始まる。それに・・・」
「オレの部屋に来てみる?」
「・・・はい」
草刈りの部屋は思ったよりも狭く、本棚に囲まれた壁の奥に机があって、床にも本が山積みになっており、簡素なベッドが部屋の片隅にあった。
「秀才の勉強部屋って感じですね・・・」
「オレは勉強が好きだった。こんなに楽しいことなんてないと思った。成績は優秀だと言われたけど、その意味が分からなかった。オレはただ好きなことをやっていただけだったからね」
「勉強ができる人ってそうなんですね。私には分からないことだらけ、覚えきれないことだらけで、今でも勉強は苦手です」
「でも大学に入ってからオレは少し考えが変わった。オレには勉強をする目的がなかったことに気が付いたんだ。医学部に入ったのも、両親に言われただけ。だから、今は自分で目標を立てて勉強してみたいと思ってる」
「それで、司法試験を?」
「弁護士に興味があるんだ」
「あの・・・でもお医者さんもとってもいい仕事だと思います。現に医学部なんだし、私、草刈さんはお父さんの病院を継ぐのがいいと思います」
「母さんに何か言われた?」
「い、いえ。私がそう思っただけです」
「母さん、君のこととっても気に入っているようだね。それは良かった。母さんは初対面の人とはほとんどしゃべらないからね。人前でご飯を食べることもない。オレも母さんと一緒に食事をするなんてずいぶん久しぶりのことだったんだ」
「そうだったんですね」
草刈がベッドに腰をかけた。のぞみはその隣にすわった。
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